◆ 高次脳機能障害とは
高次機能障害とは、脳卒中や事故による頭部外傷などで脳にダメージが生じたことにより、それまで出来ていたことができなくなったり、判断・注意・行動といった社会生活を送る上で必要なことができなくなることです。
例えば、服が着れなくなる、お箸などを使ってご飯が食べられない、ものが覚えられない、集中力がない、がまんができない、計画通りにできない、指示を受けてもできないなどがあります。
これらの症状により、日常生活または社会生活になんらかの制約がある状態が高次脳機能障害です。
前まではちゃんとしていた人でも、病気やケガでこういうことになることがあります。
家族にとっては「あんなにしっかりしていたお母さんがこんなことになるなんて・・・」とショックを受けることもあります。
◆ 高次脳機能障害は、高次と脳機能障害を分けて考えると分かりやすい。
この高次脳機能障害は本を読んでもよく理解できない方が多くて、それだけ奥深い領域なのでしょう。
私の職場のナースでも、しっかり理解している人は少ないように思います。ましてや本人やご家族は知らない人がほとんどです。
しかし高次脳機能障害者をうまくサポートしていくには、しっかり理解することが不可欠です。
そこで高次脳機能障害を理解するために、分かりやすい方法をご紹介します。
高次脳機能障害を理解するには、
言葉を分割するとよく理解できます。
高次脳機能障害を「高次」と「脳機能障害」に分けるのです。
理解のポイント!「高次」とは「人間が持つ高いレベル」もしくは「人間が社会で生きていくために必要なもの」。
「脳機能障害」とは脳がダメージを受けて「様々な機能に障害がある状態」。
とこのように置き換えるとよく分かります。
お箸を使ってご飯を食べるとか、服を着るとか、指示を受けてその通りにやるとか、これらは人間が持つものですよね。
急に怒ったり、ぼーっとしたり、計画どおりにできなかったりすると、人間社会では困りますよね。
つまり「高次」とは人間が人間たらしめている能力といいますか、人間だけが持つ能力と言えるでしょう。
「脳機能障害」は脳がダメージを受けて様々な機能に障害を受けている状態です。
この「脳機能障害」だけだと、サルや犬など動物にも起こります。サルも脳機能障害を受けると麻痺が出ます。犬も感覚がなくなったりします。人間以外にも起こることなのです。
このように脳の機能が障害を受けることによって、人間だけしかできないことができなくなることが「高次脳機能障害」と言えるでしょう。
◆ 高次脳機能障害と認知症は違います。
まず認知症ですが、認知症は徐々に進行します。
症状は中核症状と周辺症状に分けることができます。
中核症状は、記憶障害などすべての認知症患者にある症状。
周辺症状は、認知症にともなって発生する行動で、物盗られ妄想や異食、徘徊など多肢にわたります。
人によっては、あったりなかったりします。
認知症の場合は、忘れやすいといっても、お箸を使ってご飯を食べるといった長年の記憶は保っていることが多いです。ポストは赤いとか、いつも使っている押し車を押して歩けたりとか、長年使ってきたことは比較的忘れない傾向にあります。
認知症は徐々に進行していくので、年々物忘れがひどくなったり、理解力や判断力が落ちてきたりします。
もの盗られ妄想や徘徊などの周辺症状は、人によっては現れたり出なかったりします。
高次脳機能障害は脳卒中や事故を原因として、発症すること多く、認知症と違って突然人が変わったように症状が起きます。
脳に器質的な損傷があるために、社会生活が送りにくくなる症状が出ます。
一方、高次脳機能障害の多くは、ある日突然起こります。
そして認知症と違って、未成年や青年といった若い年齢の人にも起きるということです。
たとえば働き盛りの人に高次脳機能障害があると、もう一度社会で活躍することが難しくなるケースがあります。
しかもなかなか症状が改善せず、今後もずーっと引きずることが多いのです。
◆ 高次脳機能障害が目に見えない障害と呼ばれる所以とは?
脳にダメージが生じると麻痺だけではなく、この高次脳機能障害に悩まされる患者さんは多くいます。
高次脳機能障害患者さんは見た目では分からないのです。一見すると、何の変哲もない普通の人のように見えます。まるで自立した生活をされているように見えます。
本人はいろいろと失敗をしたりするのですが、その失敗の原因がどこにあるのか分からないのです。
これが「目に見えない障がい」と呼ばれる所以。
パッと見は障がいがある人には見えない。
何か作業をしてもらったり、用事をしてもらったり、しばらく関わらないと何が出来なくて何が苦手なのかが分からないのです。
高次脳機能障害は医療職でもよく知らない人がいるくらい、まだまだ理解が進んでいない症状です。
一般市民も、この高次脳機能障害をよく知らない方が大勢います。
それゆえ、誤解されていることもあり、本人もご家族も大変な思いをされていることに関心が向けられていないという現実があります。
認知症と間違えて、「あの人はボケてしまったんだ」と思い込まれたりするケースもあり、難しい課題です。
本人も今まで出来ていたことができなくなったと自覚があるケースがありますが、そして自分なりに気を付けているはずが失敗を続けてしまします。
そして周りから「今まで出来ていたことができなくなっている」という声が出てそれを聞くと、本人はとてもつらい気持ちになります。
いつもの道が分からない。数が数えられない。空間の認識力が落ちて物の前・後ろが分からなくなることで混乱する。相手の話を要約することができない。
これらはやってみると「できない」。
日本はこうした患者さんのサポート体制が不十分です。
◆ 高次脳機能障害とどう関わっていくのか
特にまだ働き盛りの患者さんにとっては、生活を根本から揺るがす一大事です。
テキスト病気や事故などで突如として別の世界に入ってしまったかのような不思議な症状に悩まされているのですが、世間の認知は低い。
なので、できない、失敗することについて周りから冷たい言葉や態度をとられることがあります。
周りの人間はミスばかりする本人に対してイライラしたり、怒ったりし、やがて「もう怖くて任せられない。あの人は役に立たない」と半ばあきらめの気持ちを持たれるケースがあります。
目に見えない障がいのため、本人は元気そうなだけに余計周りはイライラしてしまいがちです。
ミスをしたことを指摘したり、怒ったりしてもすぐに改善するものではありません。
かえって本人に自信をなくしたり、口を閉ざしてしまうことにつながる恐れがあります。
本人は失敗したことを分かっているが、改善しようにもどう改善したらいいのか分からない。
気が付けば失敗していた、という感じです。
高次脳機能障害はまだまだ世間の認知は低いのが現状です。
特効薬はありません。
地道にコツコツとできることを探しながら、本人に自信を持ってもらうことが大切です。
今までの自分なら失敗しないようなことを失敗したりします。
本人は非常に生きにくさを感じます。
機能遂行能力だけでなく、精神面のサポートも必要です。
◆ まとめ
まとめ・高次脳機能障害は、今までできていたことができなくなる。
・社会で生きていく上で必要なことができなくなるため、非常に生きづらくなる。社会との繋がりが薄くなってしまう可能性がある。
・見た目は普通なので、周りの人から理解されにくい。まさに「目に見えない障がい」
・何ができて何ができないのか、本人や周りの人たちも把握していくことが大事。医療機関や公共福祉機関としっかり連携をとりましょう。
・長い目でみて、支えていく必要がある。
入院中の患者さんの場合、カンファレンス等で主治医や担当看護師、担当リハビリスタッフ等と話をする機会があります。ぜひ、カンファレンスを活かしてください。患者本人にどんな後遺症があるのか、何ができて何ができないのか。どうしたら少しでも失敗を防ぐことができるのか。
疑問を持ったまま、分からないまま自宅に退院することがないように、何でも遠慮なく病棟スタッフに聞いてください。
谷間の障がいとよばれる「高次脳機能障害」
大切な家族の症状を理解し、長い目でサポートをしていく必要があるからです
高次脳機能障害は一人一人症状が違います。
それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。
※この記事は2018年11月3日に掲載されたものをリライトしたものです。
記事内容をより深く、より分かりやすく改善しました。また、内容が古くなっている箇所は新しく更新しています。記事を書きなおすことにより常に新しく正しい情報を読者の皆様にお届け致します。このように過去の記事に手を入れる必要がある場合は、適宜リライトをおこなってまいります。
それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。
初出掲載:2018年11月3日 更新日:2020年2月22日