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今回のお話は不眠です。

不眠は若い人にもいますが、総じて中年~高齢者に多くなります。

不眠には、タイプがあります。

今日は、不眠のなかでも実際は寝ているにもかかわらず、本人は「眠れていない」と感じてしまうという感覚のズレが生じるタイプの不眠についてです。

ちょっと長めの記事(講義?)なのですが、対策付きで話していきますので、不眠で困っている方にはしっかりと学んでいただければと思います。


◆ 「寝付けない」と困っている…それ、「睡眠時間誤認」かも知れません。



これまでの多くの研究で、不眠で悩まれている患者さんは、実際よりも不眠症状を極端に強く感じていることが分っています。

睡眠状況を測定する「睡眠ポリグラフ検査」というのがあります。


「睡眠ポリグラフ検査」とは
睡眠中の脳波測定をすることで、睡眠時間や睡眠の深さを客観的に測定できる検査です。


この検査をすると、多くの患者さんが言う返答があります。
実際は寝ているのにあとで患者さんに「どれくらい眠れましたか?」と聞くと、「全然眠れなかったです」と答えます。

つまり、実際の睡眠と患者さんが感じている睡眠とのあいだに認識のズレがあるわけです。

これを「睡眠状態誤認」といいます。


不眠を訴えるかたの多くは眠れているにもかかわらず、眠れたという認識がないので「不眠だ」「つらい」という状況になっていることが多くの研究で分かっています。

ほかの不眠パターンもありますが、今回はこのタイプのお話です。


「睡眠ポリグラフ検査」は通常の不眠の検査には使われません。

不眠の診療は、「患者さんの主観的な不眠症状」を最も重視しています。

患者さんが感じている不眠症状をもとに医師は診察をしていきますので、患者さんが「不眠じゃなくなった。よく眠れた」という感覚を持ってもらうように薬を調整していくことが基本になります。


◆ 検査では二度寝をしてよく眠っていることはよくある。



「夜中にトイレで目が覚めて、それから寝付けない」

「朝早く目が開くと、もうそれから眠れない」

こうした訴えはよく聞きます。

病棟で働くと、上記のような訴えはよくあることです。

こうした加齢とともに出てくる睡眠への不満があります。


では先ほどの「睡眠ポリグラフ検査」で実際の睡眠時間を測定して「いえいえ、大丈夫です。あなた、ちゃんと寝ていますよ」とデータを突き付けて、患者さんに話してみたらどうでしょう?

まず間違いなく、それで患者さんの苦痛や不安は解消されません。

なぜなら、患者さん自身にその実感がないからです。

どんなに客観的データを見せて説明しても、患者さん自身がその認識をしてくれないと苦痛はずっと続くんです。


病棟で「眠れない。眠剤がほしい」と言ってくる患者さんは多いのですが、巡視をしていると普段から寝息を立ててしっかり寝ているケースがよくあります。

「でも寝ていますよ」と言っても無駄です。

そして20時くらいの早い時間から「眠剤がほしい」と言ってきます。

「世の中の人の多くはまだ起きているよ」

「20時なんてまだ早いじゃない」

「もっと遅くまで経っても眠れないのならまだ分かるけど」

と思うかもしれませんが、本人は不安で仕方がないのです。

これがまさに「睡眠時間誤認」の状態といえるでしょう。


不眠の診察で「睡眠ポリグラフ検査」が使われなく、患者さんの主観的不眠症状を重視しているというのはこれがあるからです。

患者さんが感じている不眠の苦痛や不安は、検査の客観的データと一致するとは限らないのです。


「夜中に目が覚めてからは、一睡もできていない」という患者さんも、実際には二度寝をしてかなり眠っていることも珍しくはありません。

でも不思議なことに患者さんにはその認識がないので、どんなに周りが言っても信じてくれないということです。


◆ 認識のズレがあるまま、より多くの眠剤でねじ伏せようとしてもダメ。


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睡眠状態誤認はまだ分からないことが多い。

医師は「よく眠れなくて困っている」「昼間がしんどい」という患者さんの声に弱い。それゆえ、眠剤の量を増やしたり、別の強い薬に変えたりと薬物療法を強化されることがあります。


これは医療現場では大きな問題なのです。


というのも、睡眠状態誤認に、睡眠薬などを使った通常の薬物療法が効きにくいからです。


患者さんが「眠れない」と言っているのに、より強い作用の薬を出しても睡眠状態はそれ以上改善しない。

むしろ、昼間まで催眠作用が残ってしまい、昼間にぼんやりしたり余計に疲れが取れなかったりします。薬の効果で昼間に眠気が出て、しっかり昼寝をしてしまうケースが多くなります。

これが、かえって夜の不眠を悪化させることになりますので、注意が必要です。


◆ 【対策①】寝室恐怖症を克服しましょう。



実際に病棟でこうした不眠の患者さんをみていると、本当に不思議です。

眠れなくて苦しんでいる、その場所はベッドですよね。

でもこういう患者さんて、ベッドによくいるんです。

「苦しい場所」「つらさを味わう場所」であるはずのベッドによくいるんです


高所恐怖症の人って、高い場所を避けるでしょ。勉強が嫌いなら机に向かわないでしょ。

でも不眠の患者さんって、長時間ベッドにしがみついているんです。


そんなにつらさを味わうベッドになんかいなきゃいいのにと思うのですが、患者さんに聞くと、

「いや、長く寝転がっていると、その分休まるんじゃないかと思って。うたた寝だけでもできるんじゃないかと思って」

と言われます。ちょっとでも眠りたいからということのようです。


完全に間違いです。


長時間ベッドにいても、眠れずに悶々とした時間が過ぎるだけです。

研究では、こうしたベッドで悶々とした時間が不眠を悪化させることが明らかになっています。


で、ベッド(寝室)に向かうとき、「眠れなかったらどうしよう」という恐怖があります。

「きっと今夜もだめだ。眠れないだろう」と不安でベッドに入ります。


これがパブロフの犬のように、脳に刷り込まれてしまいます。

もう、そういう脳になってしまうんですね。

レモンを見たら唾液がでてくる。まさにそのような状態。

恐怖で布団に入ると、それで目が覚めてしまい、悶々とした時間を布団の中で過ごすことになります。


◆ 【対策②】眠れないなぁという悶々とした時間が一番の悪玉


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あと、「早寝」「長寝」「昼寝」は、不眠を悪化させる代表的な間違った寝かたです。

さきの20時に寝たいとか、朝ごはん後もまた寝床にいるとか、昼寝を長時間するとかは、まったく合理的ではありません。


こういうことをしているのに、「眠れない」「眠れない」と不眠を訴える人は多くいます。


冒頭にも書きましたように、不眠で悩む人の多くは中年~高齢です。

実質的な睡眠時間は、健康な人でだいたい6時間。

なので、たとえば9時間やそれ以上ベッドにいるのは(夜や昼寝も全部含めて)、その分悶々とした時間を布団で過ごすことになります。


この、「悶々とした時間」を減らす、無くすのが最重要になります。

寝床でだらだらと長時間過ごすのはやめましょう。


◆ 【対策③】本当に眠くて眠くて仕方がない時に寝ましょう。


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「布団に入っても眠れない」という負のスパイラルから脱却するには、

「布団に入ればすぐ眠れる」という、良い睡眠体験を積み重ねる必要があります。


具体的には、「めちゃくちゃ眠たくて仕方がないときに、布団に入る」です。

たいして眠くないのに、寝ようとするからダメなのです。


なーんだ、単純だな…

と思ったかもしれませんが、意外とできていないんです。


先述したように、早い時間から眠剤を欲しがる、昼間も布団にいる、という人は多いのです。

こういうことを止めて、しっかり夜更かしをしましょう。


23時?0時?1時?

それでいいんです。

0時だろうが、起きていましょう。

そこで眠くてしかたがない状態でサッと布団に入りましょう。


眠くてしかたがないという状態ではないのに、布団に入るからダメなのです。


実質6時間くらいの睡眠がとれるくらいの夜更かしが目安です。


朝6時に起きるのでしたら、0時に布団に入る。


最初のころはそれでも布団に入ると悶々とするでしょう。

成功体験の積み重ねが大切です。

眠くてしかたがないときにこそ、布団に入るようにしましょう。


「眠たい」→「布団に入る」
「布団に入る」→「眠れる」
この良いサイクルを脳の刷り込むのが目的です。


◆ ところが、やらない人続出問題。専門家とともに改善しましょう。



いくら「これで不眠を解消できる」と言っても、やらないですね。

今まで私が何人も不眠患者さんに関わってきましたが、まずやらないです。

試すことすらしません。

あんまり言うと、嫌われます(;^ω^)

これは私だけではなく、三島和夫医師(医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長)も脱落する患者さんがいることを話しています。


それくらい不眠への恐怖は強いということです。


そして、いつもの生活パターンを変えるということは非常に困難だとも言えます。


睡眠は生活の大切な要素ですが、パーソナルな面が強い。


今回の睡眠状態誤認は、不眠で悩む方に多いパターンです。

ですが、「睡眠時間誤認」という言葉をご存知ない方は多く、それくらい専門家が少ないと言えるでしょう。

習慣を変えるのは時間がかかります。

時には失敗もするでしょう。

でも専門家とともに、不眠は改善できる症状です。

最近では公認心理士による睡眠療法もあります。

睡眠状態誤認は実際は寝ているといっても、他の不眠と同じように患者さん本人に悪影響を与えています。

専門家と一緒に学びながら、つらい不眠が解消されることを願います。


睡眠の第一人者 三島和夫先生の著書です。

米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、現国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている、睡眠のスペシャリストです。より良い睡眠のために。






それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。


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