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「患者様・ご家族のための 回復期リハビリテーション」という本のご紹介です。

著者は医療法人の理事長を務める医師:丸石正治氏です。

この本は、いわゆるリハビリテーションの方法や介護の方法などを書いたマニュアル本ではありません。

回復期リハビリテーション病棟でおこなわれるリハビリテーションについて、著者の長年の経験から大切だと思うこと、伝えたいと思うことが書いてあります。

医療者と患者さん・ご家族が協力して、回復期リハビリテーションをより充実させるために、その基礎となることを最新の知見も加えて、解説してあります。


回復期リハビリテーションにご家族がご入院していらっしゃる方やご本人に向けて書かれているのですが、読むと私たち回復期リハで働くスタッフも対象になっていることが分かります。


回復期リハとはどのようなことをするのか、回復期リハビリテーション病棟というのはどういう基準があって差別化されているのか、心のケアはどうするのか?


特にこの本の素晴らしいところは、「復職支援と自動車運転」について分かりやすく書かれているところです。

これについて書かれている本は、私の知る限り少ないです。

でも回復期で働いていると分かるのですが、「退院してから自動車の運転はどうするの?」「仕事はどうしよう。会社はいままでどおり雇ってくれるのか?前と同じ部署で働けるのか?」という重要な局面に当たるのです。しかし、そのへんの知識が少ないためにカンファレンスでスタッフから適切なアドバイスが出てこなかったりすることが非常に多くあります。

この本では、復職支援や自動車運転をどう進めていけばいいのかを学ぶことができます。

患者さん・ご家族の立場では、これこそ知りたいですし重要な問題になります。

こういうところが書いてあるので、本当に助かりました。




では本の中身について具体的にご紹介します。

◆ なぜリハビリテーションの結果に差が出るのか?

リハビリ病棟にはランク付けというか区分があります。

その区分によってリハビリの充実度は変わります。

医療者は知っていると思いますが、一般の人はそこまで知っているのはまれでしょう。ご家族がどの区分のリハビリ病棟に入院するのかで、実はリハビリ成果も変わってくるのです。

区分によってどういう特徴があるのかを分かりやすく解説してあります。

利用者にとってはこうした知識は重要な判断材料になるはずです。また医療者も区分による違いがよく分かると思いますし、現在回復期リハ病棟で働いていらっしゃるスタッフで区分の違いやそれによるリハビリへの影響が分かっていない方に読んでいただきたい項目です。


◆ 回復期の心のケア

この項目は著者も「多くの方々に伝えたい部分です。患者様・ご家族のみならず、回復期リハビリテーションに携わるスタッフにも読んでいただきたい」と言っているように、患者さんを理解し、共感していくことの大切さが分かります。

この患者さんへの「共感」ということは他の多くの本にも書いてあることですが、「この切り口で共感を書いているのはこの本だけだなあ」と思ったほど、現場の状態をうまく表しています。

たしかにリハビリに携わるスタッフにもぜひ読んでいただきたい。

絶対どこの病院でもやってしまっていますよ。

私はここを読んで、ハッと気づきました。今まで何も疑問も持たずに、患者さんに失礼なことをしていたんだと。

◆ 回復期リハビリテーション病院に必要な医療

国の方針により、まだ状態が不安定な患者さんでも回復期リハビリテーション病院に転院してくるようになりました。

こうしたことに関連し、回復期でリハビリテーションを行っていくことについて、どのようなリスクが潜んでいるのか?

私たちがリハビリテーションを開始するにあたって、どこに焦点を置いて開始すれば患者さんは安全にリハビリテーションを受けることができるのかが分かります。

また、ご家族様も入院中の方がまだ不安定な状態で転院されたのでしたら、さまざまなリスクがリハビリテーション中に存在しているということをご理解いただくことができます。

◆ リハビリテーション栄養学

リハビリテーションと栄養との関係については、以前から提唱されているのですが、ここではリハビリテーションを行うにあたっての着目すべきことが書いてあります。

◆ 高次脳機能障害

著者の専門が高次脳機能障害ということもあり、この章が一番ページ数を割いています。

高次脳機能障害は、一見ふつうの人のように見えて社会的なことが苦手なことがあるため、なかなか周りの理解が得られにくいのが問題の一つです。
社会復帰が非常に難しくなります。
厚生労働省の研究班によると、2000年は社会復帰率が10%。その後国の支援整備が進み、今は40%に上昇しました。

それでも40%です。つまりまだまだ社会復帰は厳しいのです。


「高次脳機能障害の特徴と家族対応のポイント」の部分では、退院してからの社会的なトラブルや家族間のトラブルを知ることができます。

社会的行動障害では、感情の対立等によって、本人・家族ともに精神的に追い詰められることが多く、医療者のサポートと治療の必要性が理解できます。

◆ 復職支援と自動運転

この章では、前文にも書きましたように、他の本ではあまり見ることが少ない、復職と自動車運転について書かれています。

回復期リハビリテーションでは、カンファレンスをよく開いているのですが、本人やご家族様から「退院したらクルマを運転したい」「仕事に戻りたい。会社はいままでどおり雇ってくれるだろうか?」と相談されることが非常に多くあります。

それだけ多くある相談なのに、意外とこのへんの情報は少ないのです。

ここが私の弱い分野でしたので、この本に書いてある情報がカンファレンスでとても役に立ちました。

社会福祉士さんもこのへんが弱かったりして、うまく患者さんやご家族様にアドバイスができなかったことがありました。

復職や運転についてもっと知らないといけないと思っていたので、買って本当に良かったと思います。


さて、ここまでご紹介してきた「患者様・ご家族のための 回復期リハビリテーション」ですが、145Pほどのそれほど厚い本ではありません。

文庫本として手軽に読めるページ数です。

1時間もあれば読めるはずです。それでいて深い内容。

医療系の棚にある本はちょっと難しいんでしょ?と敬遠していたら、もったいない。

タイトルにあるように「患者様・ご家族のための」本なのです。ご安心ください。

そして回復期リハビリテーションに携わっているスタッフの方にもぜひ読んでいただきたい本です。


初出掲載:2019年2月24日   更新日:2019年11月25日

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