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その人らしい生活を支えるとはどういうことでしょうか。

その人らしい生き方を支援するとはどういうことでしょうか。


多くの病院の看護部理念ではこうした「その人らしさ」を書いています。

看護学校でも看護師の基礎として同じことを言われます。

この「その人らしい生活」「その人らしい生き方」といっても、範囲が

大きくて漠然とした感があります。

その一方で「うん、そうだね。大切だよね」と漠然としたなかでも

ある種の共感を得られる言葉です。


何となくいい言葉の響きがあります。


私は看護学生の時から今に至るまで、たくさんの患者さんに会いました。

同時に多くの医療関係者とも会いました。

患者さんの家族にもです。

でもこのテーマは難しい。


「その人らしい生き方」は何なのか。

考えるほど難しいテーマです。

多くの出会いと別れ、そこから私らしく「その人らしい生き方」を考えて

みました。

◆ 長生きすると徐々に自分で決められなくなる


歳をとるにつれて徐々に身体の自由が利かなくなる。

歳をとるにつれて病気にかかる確率があがる。

長生きすればするほど、歩けなくなるかもしれないし、

口から食べられなくなるだろうし、耳や目も衰えてくる。

こうした身体の衰えは、自然の法則といえるでしょう。

歳をとるごとにピンピン元気、去年より来年のほうが元気だ、という

ことはまずありえません。

これは誰もが分かっていることです。

こうした身体の衰えに付いてくるのが、認知症です。

75歳から認知症になる確率は急に上がります。

程度によりますが、自分で自分のことが決められなくなることがあります。

認知症以外の病気でも、意思疎通ができず自分のことが決められないこと

があります。

こうした高齢に関すること以外に、若者でも病気やケガで自分の意思を

あらわすことが出来なくなることはあります。

では本人の思いはどうすれば分かるのか?

「最後まで自分の思いを大切に」

そうだと思いますが、まったくの他人である医療者がどうすれば患者

さんらしい生き方を支援できるのか。


たとえ好きなことや生きがいがあったとしても、

患者さん自身が「もう、できない」「こんな歳になったから・・・ね」

とやる気が無くなった方やもうできないと諦めた方も

けっこういらっしゃいます。

本当に難しい。いつも考え、模索しています。

◆ 自分の最後は家族が決める

看護師をしていると現場でいつもこれを考えさせられます。

「自分の最後は家族が決める」ことが多い現実を。

カンファレンスを開いて家族や医療スタッフ等と今後のことについて

話しをします。

患者さんの今後の決定は多くの場合家族が握っています。

本人が握っているのは少数派です。

お金のこと、介護のこと、全部家族が握っています。

いわゆる「キーパーソン」というものです。

自宅に帰りたいと思っていても、家族は療養型病院や老人施設を希望

されることがあります。

それがいけないというわけではありません。

患者さんの思いとは違う方向性になってしまうことは十分あり得るのです。


また医療者が患者さんの今後を握ってしまうこともあります。

例えば主治医が「退院後は療養型病院を考えています」と言えば、家族

もそれに反対意見を言わないことがあります。

病院から、医師から言われたことで、他の選択肢が思い浮かばず内心は

「えーっ、そこに行くの⁈」と思っていてもなかなか反対意見が言えず、

あれこれ思案したが結局

「もう、そこしか行くところが無い」

「はやく申し込まないと入院期限に間に合わなくなる」など言われて、

結局病院の提案どおりに事が進むことが多くあります。


DNAR(またはDNR)の場合もです。

たいていは本人に「DNARでいいですか?」と聞きません。

キーパーソンに聞きます。(急変時に蘇生を試みるかどうか)

キーパーソンが本人に聞いているかもしれませんが、それも本人が

しっかりした頭であることが前提でしょうから、キーパーソンが

決めているケースもあるでしょう。


繰り返しますが、これがいけないということではありません。

重症度が増せば増すほど、死に近づけば近づくほど、本人が自分の

最後を決めることは難しくなります。

◆ 医療者ができるのはサポートである

看護師は入院時に、ある程度いままでの生活スタイルを聞きます。

入院中も家族が面会に来た時とか、本人に聞くとかもあります。

特に趣味や仕事、熱中していることがあれば分かりやすい。

その人の大切にしていることが分かるからです。

でも「そんなん、なーんにもない」

と言われる患者さんは多くて、何かヒントになることはないかと

あれこれ聞いても分からずじまいということもあります。


看護をすること、それ自体は患者さんをサポートしていることに

なるのかもしれません。

痛みを和らげるようにするとか、できないことを介助するとか、

話しを聞くとか、そうすることがサポートにつながっている

のかなと考えます。

でも「その人らしい生き方」をサポートするということはちょっと

違うのかなと思います。

もっと寄り添うというか、共感するというか、

否定をしないというと、これまたどうなのかなと思いますし、

考えがどんどん深い穴にはまっていくような感じがします。


例えばめちゃくちゃ不規則で不摂生な生活をしている患者さん

がいたとしたら。

これを「その人らしい生き方」だからとサポートをするわけにもいきま

せんしね。


塗り絵とか裁縫とか演歌とかが大好きなのでしたら、非常に分かりや

すくて病棟でもできるでしょう。

でもそれが好きな人ばかりでもない。


今まで平穏に暮らしていてその生活をできるだけ続けたいというと

これも分かりやすいです。

でも入院した時点で平穏な生活が一旦止まったわけですから、まずは

入院中に元の生活に戻れるように看護やリハビリをしてサポートをする

ということに落ち着くのかもしれません。

◆ 私たちはそもそも自分らしさが分かっているのか



私たちは自分のことをどれだけ詳しく知っているのでしょうか?

パッと言われて答えに窮することってありますよね。

自己表現といいましょうか。自分の考えや主張ができる人はどれだけ

いるのでしょう。

これは結構、難しいことです。


私は目の前の患者さんが「その人らしい生き方をしたい」と思っている

と思います。そういう前提で患者さんのことを考えて考えて私たちは

動いているのです。

普段の患者さんの言葉や行動から、今までの生活の情報から

イマジネーションを膨らませて、患者さんの安全と安楽のために方針を

決めて実行する。

こうした行動の積み重ねなのかもしれません。

◆ 私たち看護師はあなたとその周りをもっと知りたい



こうしていろいろ考えてきましたが、結局は「患者さんがどうしたいのか」

これに尽きるような気がします。


「どうしたいのか」を患者本人が意思表示するのか、家族が代わりに

意思表示をするのか、もしくはそれらの情報をもとに私たち医療者が

思いをくみ取っていくのか、の違いはあれど、

「こうしたい」「こうありたい」

と願っていることをできるだけできるように支援していくこと。


そのための情報が欲しい。その人が大事にしていることを。


私たちのコミュニケーション力も大切です。こうしたことの積み重ね

で、その人らしさに近づいていけると思います。


それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。

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