本屋でウロウロしていてふと目に留まった本がありました。
本の背のタイトルだけを読むとたぶん気が付かなかったであろうその本は、たまたま表紙を向けて棚に展示されていたので足が止まりました。
長谷川式スケール… 長谷川和夫…!!
えっ、これって、あの長谷川式スケールを作ったご本人⁈
認知症になったのか…そうなのか…あの認知症の大家が、自ら認知症になったのか。
私は看護師であり認知症ケア専門士であり、普段の仕事で認知症かどうかをはかるスケールである「長谷川式スケール」をよく使っています。とてもとても馴染みのあるスケールです。
これは非常に読みたくなりました。いや、読むべきでしょう。
長谷川先生は長谷川式スケールを開発したご本人。自ら認知症になった今、何を語っているのか?
◆ 長谷川式スケールとは?
長谷川式スケールは認知症の診断の物差しとなる認知症機能検査のことで、正式には「長谷川式簡易知能評価スケール」といいます。普段は「長谷川式スケール」とか単に「長谷川式」と言って医療現場で使われています。
スケールは「物差し」という意味です。
認知症の診断にはこのほかにMRI画像診断など複数の検査をして専門医が総合的に診断をします。
長谷川式スケールだけで「認知症です」と診断するわけではありません。
1974年に公表され、1991年に改定版が出されました。いまでも全国の医療機関で改定版がよく使われています。
「今日は何月何日ですか?」「ここはどこですか?」と質問している、アレです。
一人でするものではありませんから、ご参考程度に。あときちんと学んでいないと採点するときに「これって、0点なの?1点なの?」と判断に迷うことがあります。なので通常は医療機関で受けるので、一般家庭で使うものではありません。
右欄の数字が点数です。0→0点、1→1点、4→4点、5→5点ということです。
満点は30点。20点以下の場合、認知症の疑いがあります。
本書ではこの長谷川式スケールの開発秘話もあります。
◆ 認知症の大家が自ら認知症になって分かったこと
認知症を長年専門的にやってこられた方でも、実際に認知症になってみないと分からないことってあるんですね。
著者の長谷川先生が、自分が認知症になって初めてわかったことがいくつもあるそうです。
1つ挙げると、
認知症は「固定されたものではない」ということです。
波があるんです。
普通の状態のときと連続性を持って暮らしていますが、いい時と悪い時の波があります。
たとえば朝は頭がシャキッとして調子がいいのですが、夕方になると自分がどこにいるのか、何をしているのか分からなくなる。一日の内でも波があるのです。
そういうことが、自分が認知症になって初めて身をもって分かってきたと述べています。
もちろん、人によって認知症のタイプも症状も現れ方もいろいろですので、皆が皆、著者のようではないかもしれません。
専門医であるボク自身、認知症になったらそれはもう変わらない、不変的なものだと思っていた。これほどよくなったり、悪くなったりというグラデーションがあるとは、考えてもみなかった。
と述べています。
認知症にいったんなってしまったら終わりではないということを、みなさんにぜひ知ってもらえたらと思います。
認知症になったからといって、突然人が変わるということではありません。
連続した日々の生活の延長線上に、今があります。
◆ 著者は「自分は認知症ではないか?」と気が付いた
多くは病識がないので、認知症の人は自分が認知症とは気付いていないことがよくあります。
認知症になるのは徐々になるし、痛みもないし、日々の生活の連続性のなかで少しずつ病気が進行していきますので、気が付かないことが多いのです。
でも長谷川先生は「どうやら自分は認知症になったのではないか」と2016年頃に思い始めたそうです。
「確かさ」が揺らぎ、約束を忘れてしまうといったことが増えてきて、自分の長い診療経験から、「これは年相応のもの忘れではなく、認知症にちがいない」と思うに至りました。
厚生労働省の調査では、団塊の世代が全員75歳以上になる2025年には認知症患者は約700万人になると推計されています。高齢者のじつに5人に1人がなるとされています。
長寿化によって「人生百年時代」と広く言われるようになってきました。
80代、90代と年齢を重ねるとともに認知症になる人が増え、百歳を過ぎるとほとんどの人が認知症になるといってもよいと思います。
だから、ボクが認知症になるのも、それほど不自然なことではないと思うのです。
認知症は、決して人ごとではないのです。
2017年11月、長谷川先生は「自分は認知症になった」と自ら公表されました。当時88歳。
2020年2月に91歳になられる現在も、聖マリアンナ医科大学名誉教授としてご活躍されています。
認知症の第一人者が自ら認知症になったことで分かったこと。
自らデイサービスやショートステイを経験して分かったこと。
ご家族に認知症の方がいるとか、認知症に関わっている方には特に興味深い内容ですし、心得ておきたいことがたくさん書いてあります。
本書のなかに認知症予防について2019年5月に世界保健機関(WHO)が発表した最新の認知症予防に関する資料が載っています。
食生活では、①魚をたくさん食べる、②ナッツ類、③オリーブオイル、④コーヒーも認知症予防に効果的だとした。
それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。
先日テレビで拝見しました。自分ももう直ぐ、人ごとではありません。
arashiさん>>
ある人が「認知症は長生きした証拠」と言っていたのを思い出しました。
誰でも長生きすれば認知症になる可能性がありますからね。
本当に人ごとではないですよね。
認知症が,治らない不可逆的な状態とか定義されているので,戻れなくなった時が認知症だと診断されるのでしょうけど.グレーな状態はあるはずですよね.
自分が認知症だと心配している間は認知症じゃ無い.無意識に人に迷惑をかけてしまうから,悪気は無い.自分が困らないから病気でもない.そんな認知症になるまで,私も長生きしたいなあ.
araratさん>>
実は本書のなかに、「治る認知症がある、それは…」と書いてあるんですね。
ネタばれになるのでブログ記事には書いていませんが、この本は読んで面白いです。
さすが、認知症の第一人者の長谷川先生です。
いい時と悪い時の波は母などを見ていて感じました。
当所では「斑ら」とか,「合点耄碌(少し意味が違うかな?)」とか言っていました。
自分でなった時も,波があるからそうと認識できるのでしょうね。
ディープなやつになったままだと,病識も持ち得ませんから。
Enrique さん>>
いい時と悪い時の波は、私も見ていて感じます。
長谷川先生の実体験を読んで「やっぱりそうなんだ」と思いました。
そうですね。自分が認知症だと気付く人もいれば、気付かない人もいますよね。
でも通常は自分が認知症になったと分かっていない人がたくさんいます。
「年のせいかな?」「今日は単に調子が悪いだけ」
こう思うそうです。そのうち病気が進行して病識がないまま突き進みます。
初期の頃に認知症になったとちゃんと気が付いたのはさすが認知症の権威ですね。
話題になっていますね、このご本。
父103歳で逝きましたが、最後まで自分の意志をはっきりと・・そのDNAを受け継いでいるといいんですが。ボケという言葉、大嫌いです。
長谷川氏が認知症になられたというニュースを知った時「神様は意地悪だなぁ」と思いましたが、逆かもしれませんね。
専門家だからこそ客観的に判断できる、発信していただける。貴重な本だと思います。
小生も受けたこと2回あります。両親がやるのを同席したことも4回あります。
なんか物忘れが恐怖で神経内科を受診、複数の病院でうけました。
30点で満点でしたが2回目の施設では怖くて、受けた後また予約とろうとしたら、先生が電話口にでて、ここではいま認知症かどうかはわかる、問題ありませんでしたと叱られました。将来なるかどうかは、ここではわかりませんから、しかるべき研究施設、大学病院に行きなさいといわれました。そういわれると、小生のものわすれ5年以上同じで変化ありません。アルツハイマーとかだと3年経過するとぜんぜんかわるとか。最近、アンモニアがたかいせいかポンプヘッドではないかと思ってます。よんでみます
NHK の番組を視ました。
自身で、認知症であってその症状がこの様に表れている、ということが十分に認識できているのであっても映像で視たような振る舞いをしてしまうのだなと強く印象に残りました。
「病気になって初めて患者の気持ちが分かった」と言われるお医者さんがいらっしゃいますが、この本はまさにそれ。しかも認知機能に問題が生じる認知症の例。貴重な記録ですね。
ところで「認知症」という名称にはかながねちょっとし疑問を感じています。
「認知」の「症」というのはちょっと言葉足らずという印象です。
okko さん>>
恥ずかしながら私はこの本を知らなくて、たまたま本屋で見つけました。
話題なんですね。
ようこくん さん>>
本当に貴重な発信をされていると思います。
ひでほさん>>
ぜひ、読んでみてください(^^)/
センニンさん>>
認知症の第一人者ゆえに、その証言はとても貴重で、私たちにいろいろと教えてくれていますよね。