51b35f86b0e1a541d6d9585b1b1f5103_s (1).jpg


11月19日、京大病院で重大な医療事故の会見がありました。

男性患者に誤って高い濃度の薬剤が投与され、その後も不適切な処置が重なって、男性が死亡したことが分かりました。病院長は「二重、三重のミスが重なり最悪の事態を招いた」と謝罪しました。

過去に京大病院は重大な医療事故を何度も起こしています。

今回もまた、患者が死亡するという最悪の事故が起こってしまいました。




このケースでは京大病院のホームページに詳しく書かれた発表資料が公表されています。

これを読むと、どういう人がどんな考えで行動した結果、このような事態になったのかが分かります。

これは医師や看護師だけでなく、すべての医療関係者が読むべきものです。

ほんとうに恐ろしく感じたのは、京大病院のような超有名大学病院だけでなく、他の病院でも起こり得る内容ということ。

発表資料を読んだことで見えてきたことと、医療事故について改めて考え、再発予防のためにできることを提示します。


事故の概要 - 複数の不適切が重なっていた


発表資料に沿って、どのような流れで不適切なことが重なり、最終的に死亡するのに至った経緯を簡単にまとめます。以下は京大病院発表資料です。



患者さんは腎機能障害があった。造影CT検査を行うことになった。

入院患者は、その検査の前処置として造影剤から腎臓を保護するために必要な生理食塩水を6時間点滴することが必要。検査オーダーから検査時間まで十分な時間がなく、本来外来患者で造影CT検査時に用いる炭酸水素ナトリウムを投与することにした。

当該病棟では、造影CT検査の前処置として炭酸水素ナトリウムを使用した経験がなかったため、知識が不足していた。

検査枠に空きがなかったため、緊急枠を利用した造影CT検査をおこなったが、必ずしも当日緊急で実施する必要はなかった。

・放射線科医は担当医に腎臓保護のための輸液が必要であると伝え、マニュアルを読み上げた。
  十分な検査前時間を確保できないときは「重曹」の投与について書かれていた。

担当医は「重曹」とはメイロンのことであると考え、「メイロンでいいのですか?」と放射線科医に尋ねた。

・放射線科医は「自分オーダーすることがないので電子カルテ上でどのように表示されるのかは分からないが、 重曹がメイロンという名前であれば、メイロンでよいです」と返答した。

・担当医は電子カルテ上の輸液セットメニューからのオーダー方法を知らず、直接手入力をした。

・担当医が「1000mlですか?」と尋ね、放射線科医は「1000mlです」と回答した。

・担当医はメイロン静注(8.4%)バック(250ml)を4バック(合計1000ml)必要であると誤解し、処方した。

このメイロン静注(8.4%)は、通常の炭酸水素ナトリウム(1.26%)の6.7倍の濃度です。
メイロンと炭酸水素ナトリウムの点滴薬は違うものであり、正しくは炭酸水素ナトリウム(1.26%)を1000ml投与するべきでした。


ここまでが誤った薬剤が処方されてしまった経緯です。

そして誤った薬剤が患者さんに投与されました。


・看護師は、担当医からメイロン投与の指示を受けた際に、「造影CT検査は生理食塩水が処方されるがメイロンが処方されていること、投与速度もいつもより速いこと、全量点滴するのか」を確認し、担当医は「指示どおり投与してください」と回答した。

・メイロン投与を開始したところ、患者さんは血管の痛みを訴えた。看護師は担当医に伝えたが、滴下速度を落とすよう指示がありそうしたが、痛みは消えなかった。

・検査前にメイロンを1時間投与し、患者さんは造影CT検査を受け、検査から戻ってきたあとに、顔のほてりを訴えた。

・看護師は造影剤によるアレルギーではないかと考え、病棟当番医に電話で相談した(担当医は手術中であった)。病棟担当医は様子観察を指示した(メイロン投与中であるという情報は伝わっていなかった)

患者さんは「おかしいので医師を呼んで欲しい」と訴えたが、看護師は
「様子観察の指示が出ていて、先生も知っています」と説明した。

その後心電図モニターの警報音が鳴り、看護師は患者さんが病棟内のトイレで倒れているのを発見した。
看護師は、診療科医師と救急科医師をコールし、駆け付けた医師が心肺停止と判断、蘇生のための心臓マッサージ等、一連の救命措置を開始した。

・心臓マッサージ等の蘇生処置をおこない、心停止から30分後に自己心拍が再開した。

蘇生中に口から大量の血液があふれ出した。CT検査で気胸(肺が破れて空気が漏れる)と肺からの出血を認めた。

・集中治療室に入室し、治療をおこなったが、大量出血は続いた。止血のための開胸止血術をおこなったが、止血困難で大量輸血が必要とした。

医療チームは患者がプラザキサ(抗凝固薬)を服用していること、プラザキサに対する中和薬を投与しなければならないことに気付いていなかった。

・本事故の報告を受けた医療安全管理室が、プラザキサ服用に気付いて手術室に連絡した結果、プラザキサの中和薬であるプリズバインド静注薬が投与された。


その後、結果として患者さんは死亡しました。


考察① ミスを予防するシステム的な対策が必要であった。


担当医が電子カルテの操作に不明であったこと。

おかしなオーダーをしても、それが通ってしまうシステムであったこと。

医師が間違ったオーダーを出してしまうことはあります。電子カルテでは手入力をすれば、正しいセットメニューではなく、自由にオーダーができます。まずここが問題だったと考えます。


放射線科医も事前の点滴が必要であることは分かっていましたが、その薬剤のことまではよく分かっていなかったと読み取れます。せっかく担当医と連携をしたのに、間違ったオーダーになってしまった。


システム上の問題点は、この発表資料で改善をすることを述べています。

システムに頼っていると重大なミスが生じるという意見もあると思います。しかし電子カルテを使っている病院は電子カルテのシステムを使わないと何も動けない仕組みになっています。


システムを操作するのは人間。一度キーボード入力をしてしまうとそれに従って多くのスタッフが動くことになるという事の怖さが分かる 事例です。



私の考える対策①システムの抜けが重なったために、間違ったオーダーがそのまま伝わっていった。

システム管理は大事だが、それを操作する側が間違った入力に気付く対策や、間違ったまま進んでいかない対策が必要。

人は間違える。間違えても、それが先へ行かないようにするシステム構築が重要。




考察② 不慣れなことは極力しないこと。



今回のケースでは、担当医が電子カルテに明るくなかったのと、時間のない緊急時の指示がよく分かっていなかった。さらに、病棟看護師も経験がなかったために間違いに気付かなかったということがあります。

こうした慣れないことをするときは、必ず確認に確認をするべきです。


慣れないこと=ミスしやすい


私の経験では、医師にしつこい!と怒られてもいいから、自分が納得いくまで聞くべきです。

それくらいしないと、間違いは止まらず先に進んでいくからです。



私の考える対策②慣れないことは、基本はしないこと。

どうしたもやらざるを得ないときは、相手から呆れられるくらい、納得するまで相手に確認をすること。

ただし、慣れから来るミスもあることはしっかり覚えておきましょう。




考察③ 患者さんの訴えに真摯に向き合うことが欠けていた。



患者さんの「点滴部位が痛い」「顔がほてる」「おかしいから医師を呼んでほしい」

こうした患者さんからの訴えに医師や看護師がもっと真摯に向き合って動いていれば、もしかしたら早期に異常に気付いたかも知れません。


特に慣れないことをやっていたのですから、患者さんがいつもと違う訴えをしている時点で「なにかおかしい」と勘ずくべきです。


看護師は毎日いろんな患者さんから様々な訴えを聞きますが、つい「また言ってる」「それくらいよくあること」と軽く受け流すことがあります。今回のケースでも医師から様子観察という指示を受けたので、それで押し通そうとしていたのかもしれません。



私の考える対策③患者さんからの訴えや症状にもっと真摯に向き合おう。

軽く考えていると、それが大きな事故の前兆であることに気付かない。

おかしいと思ったら、周りのスタッフをもっと巻き込もう。




考察④ 飲んでいる薬の種類は最低限把握すること。



これはあまり考えられないことですが、今回の医療チームが患者さんの内服薬について把握していなかったことです。


本当に考えられません。


誰か一人でもプラザキサに気付いていれば、結果は変っていたかもしれませんね。(それでも重大な事故に変わりありませんが)


私は救急も経験がありますが、そんなことってあるの?と発表資料を読んで不思議に思っています。

ですが、これが医療事故というものなのです。ありえないことが起こるから、重大な事故につながるのです。



私の考える対策④患者さんの内服薬のチェック、もしくは把握は最低条件。

今回のケースでは抗凝固薬を飲んでいたために、血が止まらなかった。

これに早く気付いていれば結果はもしかしたら違っていたかも知れない。

しかし、大量出血のときに、どうして医療チームが気付かなかったのだろう


考察⑤ 医療事故はチーズの穴。たくさんの穴を抜けて事故になってしまう。


医療事故、インシデントはよく「チーズの穴」に例えられます。

チーズにはたくさんの穴が空いています。事故対策でいろんな人の目があるにもかかわらず、それを全て抜けていき事故になってしまう。


今回のケースでも、いろんな人が関わっています。一人のスタッフがやったわけではありません。


たくさんの人がいたはずです。


でも防げなかった。気が付かなかった。


ここに医療事故の怖さがあります。


誰しもミスや事故は起こしたくありません。

特に医療関係者は、命を直接扱うために細心の注意が必要です。


京大病院は過去に大きな医療事故を何度も起こしています。ニュース報道になったことはいっぱいあります。


そのため、医療安全委員会等で数々の対策を講じているはずですが、今回も重大な事故が起きてしましました。


私が考える対策⑤チーズの穴を今一度確認しよう。

どんなに多くの人が関わっていても、うまくすり抜けてしまうミスがある。

一人一人がこのケースから学び、今後に活かしていくこと。




◆ まとめ



まとめ①ミスを防ぐシステム構築をすること。

②不慣れなことは極力避ける。もしするのなら、より慎重に。

③患者さんからの異変の訴えを軽く考えない。真摯に向き合おう。

④服用している内服薬は必ず確認するか、知っておくこと。

⑤どんなに厚い対策でも抜け道があることを知っておこう。扱う人間こそ、最後の砦。



医療事故はあってはならないことですが、ゼロにすることはできないと言われています。


ですが、かぎりなくゼロに近づけるように、さまざまなアイデアを出していく必要があります。


亡くなられた患者さんはさぞ苦しかったことでしょう。本当に残念です。


この京大病院のケースだけではないのですが、とにかく、この発表資料をすべての医療関係者に読んでもらいたいと思います。


それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。


カテゴリ

タグ