認知症患者は年々増えています。2015年は認知症患者が517万人ですが2025年には約730万人となる推計があります。ずばり2025年には5人に1人が認知症ということです(内閣府:【認知症高齢者数の推計】平成29年度版高齢社会白書)

認知症は75歳からグッと増えてきます。それ以前の若い頃からでも認知症になることがありますが、統計上75歳あたりから増えてきます。

高齢のご家族がいらっしゃる家庭なら、もしかしたら認知症のご家族がいらっしゃるかもしれません。

病院に入院している患者さんはほとんどが高齢者です。そうするとなかには認知症を患っている患者さんもいます。最近は認知症の患者さんが増えてきていますので、どこの病棟に入院しても認知症の患者さんはおそらくいると思います。

そこで発生するのが、認知症患者 vs その他の患者 です。


◆ トラブルの原因のほとんどは「認知症患者がうるさい」こと。

認知症患者の行動は人それぞれですが、多いのは大声を出す、夜に起きだして叫ぶ、夜にゴソゴソし物音を立てる、「家に帰る」といって看護師と押し問答になる、家族の名前を叫ぶ…など他患者からすると「うるさい」系の言動が問題になります。

その他にも

●部屋を間違えて入ってくる。それならまだしも、他人のベッドを自分のベッドだと思い込んで、「誰じゃ!お前は。ここはわしのベッドだぞ!」と言って追い出そうとする。

●他人のご飯をとって食べる。

●病院に連れてこられたことを「牢屋に入れられた」と思って「こんなところに連れてきて!だまされた!」と怒り、家に帰ろうとする。

など、さまざまです。これら、私の経験で本当にあったことです。


認知症患者と看護師とのバトルもあるといえばあるのですが、ここで問題になるのが、認知症ではない患者さんがいるので、そうした患者さんは上記のような認知症患者の言動が耐えられないということです。


特に夜間。

ワー、ワー叫ぶ認知症患者さんが同室にいると、他の患者さんが眠れない。

これが一番多いトラブルです。


そうすると「あの患者うるさい!なんとかしろ!」「あいつが部屋にいると嫌だ。追い出せ」「あいつのせいで夜眠れない」ということになります。

はっきり言わない人もいますが、要は「あの認知症患者を追い出せ」ということを言ってきます。こういうことは本当によくあることです。

認知症患者はうるさいと他の人から嫌われる、疎まれる、避けられるということが現実としてあります。


◆ 認知症患者のなかには、睡眠剤が効かないこともよくある。

「それなら眠剤を使って眠らせたらいいんじゃない?」

とお考えでしょうが、それはもちろん試します。それで寝てくれればいいのですが、認知症患者は眠剤がそれほど効かない人がけっこういるんです。寝ても3~4時間ぐらいしか寝なかったり、ベッドに入ってもなかなか寝付かなかったりその間騒ぐとか。

眠剤があまり効果ない場合、どうしますか。

眠剤以外にも気持ちを落ち着かせる薬や興奮を抑える薬なども使うことがあります。精神科に相談して薬の調整をすることもあります。

しかしそれらすべて効果がない場合もよくあります。どうしますか。


◆ 認知症患者の寝る場所は、廊下しかないのか。



対策としては、

①廊下(ホール)にベッドごと部屋から出して、そこで寝てもらう。

②ナースステーションの中で車いすで過ごしてもらう。

③もっと強力な薬で眠てもらう。


①②が多いと思います。

③はそれで夜は寝てくれても、昼間まで薬の効果が残ってしまいリハビリがやりにくくなるのと、昼夜逆転の原因になりかえってよくありません。

なので、①か②をおこなうことが多い。


こういう認知症患者さんの場合、うまく歩けないことが多く、一人で放っておけないことがほとんどです。なので、安全対策と他患者の安眠確保の両立を考えて対策をとります。


しかし、認知症患者がうるさいからといって、部屋から出ていけというのはなんだか気持ちがすっきりしません。

廊下(ホール)は本来人が寝る場所ではありません。同室者が文句を言ってくるから仕方なく認知症患者を部屋から出して、廊下(ホール)で寝てもらっているんです。同じ部屋で入院しているのに、なんだか不公平ですし、認知症なので廊下で寝ても訳が分かっていないからいいだろうというのが根底にあるんです。


私やあなただって、いずれこうなるかも知れません。


普段はTVや街で認知症の高齢者を見て、「ご本人も大変ね。苦しいでしょうね。助け合わないとね」と言っておいて、いざ自分の近くに認知症患者がいると「うるさい、あいつのせいで夜眠れない。部屋から出せ!」と文句を言う人は多い。もう経験でよく分かります。

たしかに睡眠は大事ですよ。でもね、なんか人の優しさ、寛容さが感じられないことが病棟にいるとあります。自分の都合ばかりを優先して考える。無料の大部屋を希望しているのなら、もう少し辛抱してほしいのです。どんな患者と同じ部屋になるのか分からないですし。もともと睡眠をしっかりとりたい人なら最初から個室を希望してもらいたいのです。


今夜も近所の病院でこのようなことが起きているはずです。

認知症患者のすべてが廊下で寝さされているわけではありません。静かな方もいます。

しかし、きっと今夜も近所の病院で…。


それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。

初出掲載:2019年11月14日   更新日:2019年11月16日