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先日、京都の介護施設で起きた転倒事故について京都地裁で判決が出ました。

概要は以下です。

京都新聞の記事によると、転倒で死亡したのは82歳男性の入居者。

男性は重度の認知症を患っており、入居以来何度か転倒を繰り返していた。

地裁は、職員に介助補助義務違反があったとして、「職員が付き添えば死亡に至る転倒を防げた」として、施設側に2,800万円の損害賠償の支払いを命じた。(請求額は4,800万円)

皆さん、介護施設等での転倒についてどう考えますか?




◆ 批判を恐れずに言うと、転倒を100%防ぐのはムリです。




この記事についての「Yahoo!コメント」(抜粋)

・この判決がまかり通るようになれば、施設側も、転倒のリスクがある人の入所を断るしかなくなってしまい、かえって、入所希望されている方々に迷惑になります。

・そんなに大事な家族ならば、家で看たらいい

・家族は自分達だけでは介護できない重度の方の介護に、お金を出しているからと施設に過度の要求をするのはどうかと思う。こういう例が増えれば、面倒な人は受け入れませんとか断る施設が増える。

・この方1人に対し職員1人が四六時中つきっきりになれるわけもなく…
転ぶ時は本当に一瞬で転んでしまいます…どれだけ転倒予防に努めていても一瞬の隙をつくように。

・病院ならば身体抑制ができるけど介護施設はそれが禁止されてる。でも現場も人手不足で入所者1人1人を24時間みてるのは無理。
自分たちだって介護できないから施設に入れたんだよね?わざと突き飛ばされて亡くなったわけじゃないのに、訴えるって人としてどうよ。
・これで、賠償金ですか。介護訴訟乱立になりそうな。介護職はますますリスクが高く、離職と共に、就職する人もやめとこって人多くなりそう。ただでさえ厳しい職場なのに。

・金目当て?そんなに大事な人だったのなら自分が手厚く看てあげたら良かったのでは?
都合良すぎだ!まずは介助の大変さを知ってから言えや!

・転倒させてはいけないけど行動を抑制(縛るだけではなく薬などまでも含む)してはいけない。というのが今の介護のルール。このままじゃ介護職に就く人が減る一方。
認知症の人を介護する大変さをもっと理解してほしい。綺麗事だけでは済まない苦労が沢山ある。転倒させないよう職員が色々対応を考えても、それを超える理解できない行動をするのが認知症。
・寝たきりでない以上、避けられない事だと思います。ご家族の方も一緒に住んでいたとして、100パーセント予防出来るすべはないはずです。

・年齢からして、かなりの高額賠償ですね。

・なんで2800万?
この老人は生きてたら残りの人生で2800万以上稼げる人なのか?でなければ、こんな金額おかしくないか?


6/4AM9時までの時点で、438件のYahoo!コメントが届いています。

全部はご紹介できませんが、概ね介護施設側を擁護するコメントが多い。

もちろん、亡くなった男性には残念で哀悼の意を表しているコメントも多いです。


私は病院も介護施設も経験しているのでよく分かります。

「転倒を100%防ぐのは不可能です」

これは、上記のコメントにもありますように、一度でも介護の現場に身を置いたことがある人なら必ず分かります。

ムリです。

絶対に、いつか、誰か、転倒します。


特に介護施設は抑制をしません。高齢者の尊厳がーとかいわれ、抑制をしませんから、動ける人は自分で動けます。

スタッフも転倒予防にあれこれ策を考えますが、いつでも傍にスタッフがいるわけではありませんから、隙を見てスッと動かれたらもうどうしようもありません。

こういうことを日常的にされているので、通常の業務ができなくなっています。

ただでさえ忙しいのに、キツイのに、転倒予防に付き添ったりして時間がとられて仕事ができません。


死亡した男性は重度の認知症を患っていたそうです。

どこの施設も転倒予防をしていますし、認知症の方に対するケアも実践しています。しかし、認知症はユマニチュードや傾聴などをしても、100%効果は期待できません。

そう、人類は認知症をまだ克服できていません。


中には、「施設側は絶対転倒させるな」という意見の方がいるかもしれませんが、それは無理です。


◆ 責任の重さに耐えかねて辞める職員はたくさんいます。

毎日糞尿にまみて、暴言を吐かれ、爪で引っかかれ、家に帰れば自分の身体にいつの間にかできているアザをみる。

低賃金で働き、家族からは「あれができていない。これをやってほしい」と要望を言われ負担が増える。

上司からは転倒させるなと言われ、無理なのを承知で転倒予防策を施し、建て前上は「転倒予防してますよ」として、夜勤は一人でフロアをみて、あちこちからナースコールが鳴り、一人じゃ絶対みれないのを無理して看て、「次行きますから、ちょっとだけ待っててください」という声をかけても入居者さんが守るはずがなく、待ちきれずに勝手に歩いてコケる。

で、責任を追及され、裁判になり、負ける。


もう誰も介護をしなくなると思いませんか。


転倒をしてもいいとは誰も思っていません。どんなに忙しくても、イライラしてても、転倒していいとはスタッフ一同誰も思っていません。みんな毎日必死で働いています。

現場に身を置いているからこそ、入居者さんが安全に過ごすために全力を出しているんです。入居者さん一人一人の癖や習慣や行動パターンもよく知っています。でも無理なんです。


このことを国民に広く知ってもらいたいんです。


◆ 家族の思いは。自分で面倒をみれないという現実。

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私の祖母は重度の認知症でした。もうだいぶ前に亡くなりましたが。

自宅に同居していたので、それはもう毎日大変で、昼夜逆転、知らないところに電話をかける、異食、勝手に外に出て迷子になる、近所の家に勝手に入っていく、などなど、本当に当時は大変でした。

自宅でみるのは限界。特別養護老人ホームに空きが出て、特養に入居できました。


祖母が特養に入ってからは、主たる介護者であった母は楽になりました。

特養で多少なにかケアが出来ていなかっても、そんなの大したことではありませんでした。

感謝しかありませんでした。施設に感謝です。

もう自宅でみるのは限界でした。家族が介護で潰されるところでした。



家族によってはそれぞれ事情が違うでしょうが、結局自宅で家族が看ることができないから施設に預かってもらうというのが一般的です。

大事な家族ですからいろいろ気になるのは仕方ありません。

ですが、預けるのなら任せるんです。

そして高齢者のリスク、認知症のリスクをしっかり勉強して、必ずリスクがあるしそれはいずれやってくるということを家族が理解することが大切です。

歳をとればただでさえ足腰が弱くなる。

食べられなくなる。

認知症になれば行きたいところへ行こうとする。

それは誰かのせいではなく、自然の摂理です。

そういうふうに、誰もがなるのです。

転倒する人は、自宅でも転倒するんです。今いるのが施設だっただけ。施設にいたので施設で転倒しただけ。

転倒したー!転倒したー!どうしてくれる!と言う家族。じゃああなたは自宅で絶対転倒を防げるんですね?


介護を受ける側、介護をする側、両方を経験してきた身にとっては、なんともやるせない判決です。



それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。

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