脳卒中を発症し麻痺や失語などの後遺症が残ったとき、患者本人はどのような心理で過ごされているのでしょうか。
そこには現実と受容のハザマに揺れ動く複雑な心理があります。
◆ 今までの自分と違う身体に突然なってしまう
脳卒中はその字のとおり、「卒然」と中る(あたる)のです。
いきなり今までの身体の機能が失われます。
いままでの生活スタイルを根本から見直さないといけないケースも多々あります。
自分だけでなく、家族も周りの人を含めて新しい生活スタイルを築いていく必要がでてきます。
いままで普通にできていたことができなくなります。
誰かの手を借りればできるかもしれませんが、自分一人でやろうとすると転倒して大怪我をするリスクがあります。
自分の身体に突然起こった変化は、強烈なストレスをもたらします。
◆ 心理はいつも揺れ動くもの。
病気等で障害が残ったとき、それを自分のなかで受け入れる心境になることを「障害受容」と呼びます。
これは簡単にはいきません。障害受容ができるようになるのに、通常は2~3年はかかるといわれています。
一度受容ができたからといって、それがずっと続くとも限りません。
受容できたり、また戻ったり。それを何度か繰り返してようやく受容できるとも言われています。
看護師になってから多くの患者さんと関わってきました。脳卒中や頭部外傷、パーキンソン病などの脳系の病気の患者さんが多かったのですが、不思議と皆さん普通なんです。落ち込んでいる様子があまり感じられない。話すと笑顔をみせたり、しゃべり方にも沈んだ様子がないし、ごく普通にリハビリをされご飯を食べていらっしゃる。
本当は心の中は悲しみでいっぱいなのかもしれません。将来に絶望されているのかもしれません。
でも多くの方はそれを表情等に出していない。
反面、自分の複雑な感情を表出される方もいます。
8年ほど前に受けもった患者さんで脳梗塞を再発して入院してきた高齢の女性患者さんがいました。
その人は「窓から飛び降りようと思うけど、この身体じゃあできない・・もう生きてても仕方がない」とおっしゃっていたのを今でも覚えています。
些細なことで怒ってスタッフに突っかかってくる患者さんもいました。
自分では何もしようとせず妻やスタッフに日常生活のことをやらせようとする男性患者さん。
片麻痺が重度で左半身がほとんど動かないが、退院後は勤めているラーメン屋でまた働きたいと考えている患者さん。「できると思いますよ」と話すその顔は「できるに決まってるじゃん」という表情でした。
病気の発症で、できることは減っても今までの生活スタイルを維持できる、維持していこうという思いでいるのだと思います。
しかし現実はそう甘くはなく、今までと同じようにはできないのです。
ご本人も知っているんです。知っているんですけど、それを認めたくない。否定したい、できるんだと信じたいんです。できるようになるに決まっていると信じたいんです。
一見笑顔を出している患者さんも、悲しみと不安でいっぱいのはずです。
先述したように、私は笑顔を出せるような心理にとてもじゃないがならないと思いますし、何もする気が無くなってしまう自暴自棄になるかもしれないと思っているのですが、毎日リハビリをして、笑顔を見せてくれる患者さんは本当に見習わないといけないなぁと思います。なんとたくましい方々なんだろうと感服します。
逆にこちらが患者さんから勇気をもらっています。
◆ 本当に良くなるのか・・・不安と期待
リハビリをしても良くなるのかどうか、どこまで回復するのかはやってみないと分かりません。
劇的に回復する人もいれば、かなりゆっくりであまり変化が感じられない人もいます。
リハビリは個人差が大きいのです。
こうした将来どうなるか分からないが、皆さんリハビリを継続されている。
なかにはリハビリを諦めてしまって何もアクションを起こしていない人もいます。
でもこれは非常にもったいないと思うのです。
以前は「6ヶ月の壁」というのが言われていて、発症から6ヶ月が回復の限界で、それまでの間に集中してリハビリをしたほうがいいとされていました。
発症から6ヶ月を過ぎると、もうそんなに効果が期待できないとされていました。
最近の研究では何年経ってもリハビリの効果が期待できるということが分かりました。
だから途中であきらめてしまってはもったいないのです。
リハビリは明日になったりすぐに効果が出ているというものではありません。
地道にコツコツと継続していくものなのです。
「本当に良くなるのかな?」「今やっていることは無駄な努力にならないかな?」
毎日不安と戦っている患者さんに伝えたいことは、ちゃんとリハビリのスタッフに自分でできるリハビリメニューを一緒に考えてもらってそれをコツコツと毎日積み重ねていくことで、いづれ効果が出てくるという希望るということです。
無駄な努力をし続けないためにも担当のリハビリスタッフとよく話をしていきましょう。
「すぐに」という魔法はありせん。
何事もコツコツと継続していきましょう。
それではでは最後まで読んでくださってありがとうございました。
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