脳卒中の後遺症で「高次脳機能障害」というのがあります。

これは脳卒中になったら必ず残るものではありません。ある人もいればない人もいます。あってもその程度は人それぞれです。

この「高次脳機能障害」=(高次脳)は、外傷や麻痺と違って外からパッと見ただけでは分かりません。いや、分かりずらいというべきでしょうか。健常者にはなかなか分かりずらい症状ゆえに、周りの理解や強力が得られにくかったりします。誤解も多いこの高次脳。医療者であっても対応に困ることは多いし、医療者でさえきちんと理解できていなかったりします。それくらい奥が深いというか、まだまだ謎に包まれている症状でもあります。

対応を間違えるとかえって患者さんのやる気をなくしたり、混乱させたりします。周りの人間はどういうことを留意しておくべきなのかを見ていきましょう。

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◆ 注意障害があると後で恥ずかしい思いをすることがある。

注意障害といって、普通なら気付くようなことでも気付かなくなります。特に半側空間無視の症状がある人にはよくあることです。

例えば横にあるモノの存在に気づかない。

衣服がめくれあがっているのに気づかない。

など、生活しているいろんな場面で「気付かない」のです。

別に本人がボーっとしているわけではなく、症状としてそうなります。


カーディガンを片手だけ通して、それで歩いているということがあります。当然カーディガンは片腕分しか着られていないのでだらりと垂れ下がっています。そんな状態で歩いていることがあります。それでも本人は気付いていません。普通片方の腕しか通していないなら気付くものだと思いますが、注意障害があると気付かないのです。


大切なのは、「これは社会的に恥ずかしいことをしている」と本人が分かっていることです。

スカートがめくれ上がっているのを公衆の前で指摘したり、職場で指摘したりすると、本人は大勢の前で恥をさらしてしまいます。

それは本人にとってマイナスになるだけでいい事はありません。

そっとさりげなく直してあげるのです。

「ダメじゃないの!みっともない!」

と言ったところで恥の上塗りで、本人のリハビリをする気持ちや社会の中で生きていく気持ちを殺いでしまいます。


◆ できないことを「なんでできないの?!」と叱咤激励をしてもあなたの思うようにはいきません。



注意障害のほかにも、服が着れないとか道具を上手く使えないとかいろんな症状があります。

高次脳になるとそのすべての症状が患者に出てくるというのではなく、脳の損傷部位によって出てくる症状は違います。


これらは「症状」なのです。

本人の性格や生まれつきの癖とかとは違って、ある日突然その人に降りかかった「症状」なのです。

しかも「すぐに」改善はしません。時間がかかるものなのです。

本人も焦っていたり悔しかったり悲しかったりするものです。

つらいのは本人が一番感じています。

一見、やる気がないように見えても、本当にやる気がないのではなく歯がゆい思いもしています。

何度も言いますが、パッと見では分かりにくいのが高次脳です。

これを周りの人間は理解しましょう。






◆ 一歩家の外に出ると障がい者にやさしくない社会なのがよく分かる。



ユニバーサルデザインが叫ばれて久しくなってきましたが、公共の施設でもまだまだ不便なことが多くあります。

障がい者からすると「なんでこんなところにあるの?」「もっとこの辺にあると使いやすいのに」ということが結構あります。

これは設計者や施工者が実際に障がい者の方から意見を聞いていなかったり、健常者の利用しか頭になかったりと、ユニバーサルでない考えで工事をおこなったからです。


ほんのちょっとした気遣いでいいんです。

それだけで断然使いやすくなります。

麻痺があり注意障害があると、数センチ位置をずらしただけで助かることがあります。

行政のお偉いさんもこれが分かっていないのです。


◆ できないことよりも、まだこんなことができると思ってください。



特に家族。友人。同僚。先輩。

こうした身近にいる人こそ知ってほしいと思います。

やいやい言ったところで本人はすぐにどうしようもできないので、余計苦しいのです。

言っている方は励ましのつもりでしょうが、悪気はないしむしろいい事をしているつもりでしょうが、そこは理解してください。


「しっかりしなさい」「がんばれ」と言われても、「はいそうですか」とはいかないのです。

のろのろしていると周りは思うしそう見えるのでしょうけど、そればかりは本人に言ってもどうしようもないのです。


しかし「じゃあもう何も言わないよ。一切言わない。放っておく」というのも良くありません。

本人はちょっと優しく背中を押してほしいのです。放っておかれるのは悲しいし余計やる気がなくなります。

やる気が出にくいがやる気がなくてもいいわけではない、本人は両方の気持ちが共存しています。

陰口を言われると悲しいし悔しい。

相手から見るとのろのろしててやる気がないように見えるかも知れないが、本人はこれじゃいけないと思っています。

本人も困惑しています。

これを分かりましょう。

「この患者は何に困っているのか」「どんな能力が残存しているのか」「どうありたいのか」

こうしたことを患者とコミュニケーションをとっていくことが大切です。


あと「怒ったところで回復が早くなることはない」ということも覚えておきたい。


高次脳は人それぞれです。

周りの人は柔軟に対応していくことです。








それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。

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