「予防策を講じていても転倒は一定の割合で生じ、必ずしも医療介護現場の過失とは位置づけられない」
— ふるたによしひさ@教育系看護師YouTuber&ブロガー&ライバー (@yoshihisanurse) June 14, 2021
そして転倒は老年症候群の一つであると発表。至極まっとうな主張。医療介護現場は救われる。
【時事メディカル】老年医学会、介護施設での転倒予防に声明 https://t.co/avRuweiOB1 #時事メディカル
この発表は本当にうれしい。
学会がこう言ってくれるのは、現場は救われる思いです。
◆ 【日本老年医学会発表】転倒は必ずしも医療介護現場の過失とは位置づけられない
<ステートメント1>【転倒すべてが過失による事故ではない】
転倒リスクが高い入所者については、転倒予防策を実施していても、一定の確率で転倒が発 生する。転倒の結果として骨折や外傷が生じたとしても、必ずしも医療・介護現場の過失に よる事故と位置付けられない。
まず、転倒は一定の確率で発生するというのをはっきりと記載しました。
医療介護の現場のスタッフは知っています。
どんなに対策を講じていても、転倒は起きます。避けられません。
でも、心では分かっていても、口に出して言うのはご法度な空気があります。
「そんなことを言うな。転倒予防策を考えろ」と言われるのがオチです。
指示が入らない、自分の状況が理解できない、秒速で忘れる…いつ転倒してもおかしくない人を転倒させないのは、本当に難しいです。
だからといって、転倒予防をおろそかにしているわけではありません。
「絶対コケる」と分かっていても、転倒は避けたいもの。
医療福祉の現場は、この相反することに心身を削って働いています。
◆ 動くとコケるが、リハビリは継続しよう
<ステートメント2>【ケアやリハビリテーションは原則として継続する】入所者の生活機能を維持・改善するためのケアやリハビリテーションは、それに伴って活動 性が高まることで転倒リスクを高める可能性もある。しかし、多くの場合は生活機能維持・ 改善によって生活の質の維持・向上が期待されることから原則として継続する必要がある。
医療介護の現場には、動くとコケる高齢者はとてもたくさんいます。
では、「リハビリをしないでそのまま足腰が弱って立てなくなったほうが、転倒しなくて安全でいいじゃん」、というわけではありません。
日本老年医学会のこのステートメント2で言いたいのは、
「リハビリなどで利用者の能力があがると活動しやすくなる。そうすると転倒する率が上がる。それでもリハビリはやろう」
ということです。
どうしてこんなことをわざわざ書いているのかというと、
医療介護の世界では、「わざと足腰を弱らせる」ことがあるからです。
足腰がもっともっと弱くなって自分で起きれない、動けないようになると、ベッドや椅子から自分で出られないので、転倒しなくなり安全だからです。
これは医療介護の現場にいるボクや多くのセラピストたちが葛藤している現実です。
「リハビリ病院なのに、あえて弱らせて一人で動けないようにして、安全を優先するとは…」
こんなことをするために理学療法士、作業療法士になったわけじゃない!
このような声を何度聞いたことか。
もちろん自宅退院に向けてリハビリをがんばる患者が多いですが、リハビリ病院を退院した後、老健とか療養型病院とかに行くときは、安全のため一人であまり動けない人を優先して審査されることがあります。
リハビリ職としては、なんともやるせない方針ですよね。
日本老年医学会のこのステートメントは、こうした現実に警告を鳴らしているようにボクには感じます。
◆ 転倒について国民に理解を広める
<ステートメント3>【転倒についてあらかじめ入所者・家族の理解を得る】転倒は老年症候群の一つであるということを、あらかじめ施設の職員と入所者やその家族 などの関係者の間で共有することが望ましい。
老年症候群とは、転倒や失禁や褥瘡やせん妄など、高齢者に多くみられる一連の症状のことです。
高齢になればなるほど、治療が困難なことも多くなります。
転倒は老年症候群の一つで、どんなに対処していても、100%予防することは不可能です。
日本老年医学会は、
「転倒を減らすために医療・看護・介護の連携で対処すること、そ れらの対処でも予防しきれない転倒が発生することを説明することが望まれます。」
と記載し、あらかじめ家族に「転倒予防はやっていくが、避けられない転倒はある」ことを説明しようと言っています。
最近の病院や高齢者施設では、入院や入居の際に主治医や現場責任者から、転倒リスクについて説明を受けることが多くなってきました。
これについてご家族に理解して頂きたいのは、「だからといって転倒対策を軽んじているわけではない」ということです。
現場のスタッフはみんな「転倒は防ぎたい」と考えています。
少ない人員のなか、転倒しやすい患者や入居者がたくさんいるけど、毎日必死に対策に走り回っています。
それでも転倒することはあります。
それは老年症候群の一つであり、加齢にともなって誰しも通る道です。
ボクだって、高齢になればなるほど、絶対に転倒しやすくなります。
こういう、現場では言いにくいことを記載してくれたのは、現場の人間としてうれしいのです。
◆ まとめ
とはいえ、過去の裁判例をみると、転倒して大怪我や死亡したケースは病院や施設側が負けます。
どんなに転倒予防策を講じていても、転倒すれば負けます。
現場はほんとうにやるせない。
そんなこと避けたいに決まっているじゃない。誰が好き好んでケガさせたいものか…。
少ない人員で汗水たらして、糞尿にまみれて、安い給料で、夜の昼も休日も年末年始も、あれほど体力を使ってがんばっていたのに、転倒一つで有罪です。
患者(入居者)全員に、スタッフが一人ずつ張り付けというのか。
ほんとうにやるせない。
今回の日本老年医学会のステートメントで、今後の裁判が変わることは考えていません。
現場の負担が軽くなることもないでしょう。
あいかわらず、やるせないことは発生するでしょう。
しかし、学会がこうした発表をしてくれたことは、現場のスタッフの気持ちに寄り添っていると思うのです。
うれしかった。
転倒はしないに越したことはありません。
ご家族に老年の特徴を理解していただき、これからも転倒予防にがんばっていきます。
それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。
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同時に明らかな過失での事故も多々ありますね、現場のマンパワー不足も要因にされますが案件ごとにしっかりと検証していかないと医療過誤にもつながりますよね
最近身近でこのような出来事が起こりました。
青い森のヨッチンさん>>
判例をみると、病院や施設側が不利になることがほとんどです。
しかしどうしても防ぎきれない転倒はあるものです。
それでも有罪になります。
なので、これを改めないと、身体抑制はなくならないでしょうね。
数年前私の母がリハビリ施設で
転倒して骨折してしまいました
母は脳梗塞後のリハビリ治療中で
外に出てリハビリするのをとても嫌がっていたのに
無理矢理連れ出されたとのことでした
兄夫婦に母の介護は任せっきりですので
詳細は分かりかねますが
親身になって下さり
手厚いケアをして頂いた記憶がございます
想像を絶する過酷な介護現場の実情を知れば知るほど
本当心痛みます
pigumonさん>>
それは大変でしたね…。
ボクは脳卒中分野にどっぷりいますので、脳梗塞後の転倒は数知れず見てきました。
動かないとリハビリになりません。しかし動くと転倒するリスクは絶対についてきます。
リハビリスタッフはそのことをよく知っていますが、それでも避けられない転倒は必ず起こります。
リハビリをするということは、まだ歩行能力が完璧じゃないけど、それでも歩く練習していくということです。リスクを医療側と家族本人側が共に理解して進めていくのが大事だと考えています。