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夕方になると、家に帰りたくなる。

これ、家にいるのに「家に帰ろう」と思って、家から出てしまうという認知症の症状の一つです。

入院中だと、「帰らなきゃ」と思って勝手に病院から出て行こうとされるし、高齢者施設に入居している人も帰ろうとして一人で施設から出て行こうとされます。

こうした「家に帰りたい」と強い気持ちが芽生えていることを「帰宅願望」といいます。

では、どうしてこのような強い思いが生まれて、病院や施設のスタッフはどう対応したらいいのでしょうか?


◆ 【認知症ケア】夕暮れ症候群を知っていますか?



認知症の症状には中核症状と周辺症状という大きく分けて2つの群があります。

中核症状とは、記憶障害など認知症になるとほとんどの人に現れる症状です。

周辺症状とは、異食、暴言暴力、もの盗られ妄想など人によって出たり出なかったりする症状です。


夕暮れ症候群は人によって出たり出なかったりします。すべての認知症に出るわけではありません。

なので周辺症状の一つとしてとらえられます。


この夕暮れ症候群は夕方になると、「家に帰る」と言って本当に家に帰ろうとします。

入院していようが、施設に入居していようが、自宅にいようが。

本人には本人の言い分があります。

「家で家族が待っているから」

「子どものためにご飯を作らなきゃ」

「ここは知らない所だから、家に帰ろう」

など、その人なりの理由があって、「ここにいてはいけない」と思い帰ろうとされます。


看護や介護の世界では「帰宅願望」という表記をされることもあります。


実際にこうした症状が出る方は非常に多くて、私も数えきれないくらい接してきました。

入院中の患者さんにこうした症状が現れると、本当に荷物をまとめ始めて帰る準備をします。その時点でスタッフに気付かれて諭されるのですが、諭したところで本人が納得することはまずありません。

ほとんどが振り切って帰ろうとされます。

それくらい本人にとっては真剣であり、こんな知らないところにいるのは忌々しきことなのです。


家に居るのに「家に帰る」と言って外に出ようとする行動は、どういうことなのでしょうか?

それは、自分の居場所がどこにいるのか分からなくなるからです。不安なんです。「ここは本当に私の家か??」と。ある種の混乱している状態です。

それと、他の理由もあります。たとえば、家族との関係が悪くて「おじいちゃん!また汚して!」「何度同じことを聞くんだ!」とかガミガミ怒鳴られる環境だと、ここは居心地が悪いと思って出ていこうとする。

つまりいづれにしても、「ここは自分の居場所じゃない」という理由で自宅にいるのに出て行こうとするとされています。


実際にこうした場面に遭遇するとびっくりする人がいますが、本人はいたって真剣です。

ここでよくやりがちなのが、正論を諭して相手を納得させようという手段です。


◆ 夕暮れ症候群は正論が通用しません。



ついやってしまいがちですが、ほとんどの場合正論は通じません。

なぜなら、「家に帰る」ことが本人にとって揺るぎない正論だからです。

それ以外は邪論というわけです。

なるほど、たしかに私は何度も正論を振りかざして相手を納得させようとしましたが、ことごとく失敗しました。

ほかのスタッフも同じように正論で諭しましたがダメ。

まあ、認知症の本に「正論では通用しない」と書いてあるんですけどね。

つい、言ってしまいがちなのです。


正論がダメなら「それでも家に帰る」と言ってきかない患者さんに、根気よく付き合うしかありません。

なので、夕暮れ症候群の症状が出てくると、スタッフが付きっきりになるので現場は大変です。

出口をもとめて、あっちへ行きこっちへ行き。気が済むまで建物内を歩きます。

なかにはすごく気性の荒い方がいるので、しかたなく家族に電話して家族から説得してもらうとか。

家族は病院や施設でこんなことになっているとは知りませんから、夕暮れ症候群になっていることを聞いて驚かれることがあります。


大事なことは、こちらが否定してもあまり効果はないということです。

実体験としてもそう思いますし、専門書にもそう書いてある通りです。


◆ ドイツではニセのバス停を置いている。





どこの国でもこうしたことはあるようで、ドイツではニセのバス停を施設の前に置いているそうです。

ニセのバス停だから当然バスは来ません。

「家に帰る」と言ってきかない入居者がいると、スタッフが「家に帰るバスが来るので、ここで待ちましょう」と言って偽バス停に連れて行きます。入居者は「そうか、ここで待っていれば家の方向へ行くバスが来るんだな」と思って大人しくバス停のベンチに座って待っています。でもバスは来ません。しばらくして、離れたところから見守っていたスタッフが寄ってきて、「バスが遅れているそうです。今バス会社から連絡があったんです。ここは寒いので中で待ちましょう」というと施設の中に入るそうです。

また、ベンチに座って待っている内にどうしてここに座っているのかを忘れてしまうこともあるそうです。

写真の中に移っている黄色のHマークは、ドイツのバス停のマークです。


認知症は記憶障害という中核症状があると前述しました。

「忘れる」ということが症状としてあります。

認知症ケアはこの「忘れる」ということを上手く利用するのも一つの方法です。

忘れることはなんだか悲しい感じがしますが、本人がケロッとしていればそれでよしとすることです。

あれだけ「帰る!帰る!」と大騒ぎしていたのに、いまは他の入居者さんと談笑しているなんてザラにあります。


認知症になっても本人が笑顔で暮らしていけるように、スタッフや家族とっいった周りの人たちが上手にサポートしていける体制をつくっていきたいものです。





この本は認知症を学ぶのに外せないですね。




それではれでは最後まで読んでくださってありがとうございました。


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