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2010年4月から「保健師助産師看護師法(保助看法)」「看護師等の人材確保の促進に関する法律(人確法)」の改正により、新人看護職員の卒後臨床研修が努力義務化となりました。

それにともない、各病院では新人看護師を対象とした各種勉強会や到達リストなどさまざまな教育たプログラムを組んでいます。

こうした「新人看護師を教育していこう」ということ自体は歓迎すべきだと思います。

ただ、新人看護師をつぶしてしまうケースはどこの病院にもあり、新人教育に携わる人はけっして他人事ではありません。

せっかく苦労して看護師になったのに、最初の一年で潰されてしまうというのは、本当に悲しいことであり、大きな損失です。なんとか改善していかなくてはいけないと考えています。

そこで新人看護師を教育していくうえで、やってしまいがちな失敗があります。

新人看護師が挫折したり、ココロが折れてしまったりするのを今まで嫌というほど見てきて、これはまずいと思ったことがあります。

今回は「新人看護師の教育でやりがちな3つの失敗とは?」という内容でお話をしていきます。


【失敗その① 意味のない課題を大量に与える】



看護師は新人といえども専門職なんです。

なので自分で知識やスキルの向上を目指して日々努力をしないといけないんですね。

これは一般会社に勤めているサラリーマンでも同じことがいえるはずです。

看護師は自己学習を特に求められます。


ところが新人看護師教育の現場では、ルーズリーフに手書きで調べたことを書いてこいということがよくあります。

手書きでルーズリーフに書いてくること自体を完全に否定はしませんが、これは時間を消耗するだけで、あまり学習効果がありません。

なぜなら、「ルーズリーフに書いてくることが目的」になってしまっているからです。

とにかく書いてくれば先輩は怒りません。

そこにフォーカスしてしまうんです。


勉強は自分が成長するためにするものです。

新人とはいえ専門職になっているわけですから、やはり自分で足りないところを学習するのが理想です。


とはいえ、家で勉強しない看護師は大勢います。

仕事がハードだからつい寝てしまうというケースもあるでしょう。

課題はそういう場合は少しは有効かもしれませんが、単に一回だけルーズリーフに参考書をそのまんま書き写すだけでは、ものになりません。


勉強は復習が大事なのです。

人は忘れる生き物ですから、何度も復習しないと身に付かないからです。


結局、課題を出してもそれを提出することだけが目的となってしまいますから、あまり意味がありません。

それよりも、現場で実際に薬や医療器機を目の前にして教育したほうが有益な学びができると考えます。


【失敗その② 教えない】



分からない事を先輩に聞いても、なかなかちゃんと教えない看護師が非常に多いです。

もちろん、1から100までなんでも全部教えなさいというわけではありません。自分で調べて分かろうとすることはとっても大事です。

しかし、そういう自己学習とは別に、現場では「いじわる」といっていいレベルの対応がよく見かけます。

新人が先輩に分からないから分かろうとして質問します。


「はあ⁈、なんでそんなこと聞くの?じゃああなたはどう思うの?」

「じゃあこれはどうなの?これは何?これはどうやるの?」

「そんなの知らないでやるつもりなの?勉強してきて。それからやらせてあげる」


これじゃあ、聞く側も聞く気にならないです。

先輩に聞くと、なにか小言や追及がセットでついてくる。

で、結局聞きたいことを教えてくれず、「もっと勉強してこい。話はそれからだ」という態度で終わる。


私がここで言いたいのは、「いいから教えろ」ということです。

業務に関することなんです。人体の解剖生理のことや病理のことではなく、業務のこと。

それはいじわるせずにすぐに教えましょう。

だって、仕事が進まないし、業務が覚えられないでしょう。

仕事を覚えてくれないと先輩も困るし、患者さんも困る。みんな困る。


こういうことは看護の現場では日常茶飯事にあります。

職場で先輩から教えてもらう事って、本質のほんの一部なんです。

看護技術にしても疾患にしても薬の知識にしても、先輩が教えることってほんの一部分に過ぎないんですよね。

だから、先輩に聞いて「ハイ、終わり」ではないのは新人でも分かっています。


目の前に患者さんがいるわけですから、「今、知っとかないと困る」のです。

そうじゃないですか?今、患者さんに点滴とか何か処置をするわけですから、「家で勉強してから」なんて言ってられないですよね。今、教えないと。患者さんに被害がいくかもしれないですよ。なんでこれが分からないのかなー。

言葉は悪いかも知れませんが、患者さんという最高の教材が目の前にいるわけですから、今教えないなんてもったいない。


先輩が教えることはほんの一部だけなので、それを踏まえて足りない部分を自己学習するのが一番いいと考えます。


ビジネスマン時代は先輩から「今日疑問に思ったことは、今日のうちに解消しろ。明日も顧客に会うんだから」とよく言われたものです。

また、「分からないことは何度でも聞け。分かるまで食い下がれ」とも言われました。

それが自分の成長につながるし、相手も安心しますよね。ちゃんと分かろうとしているんですから。分からないままでいようとしていないんですから。

「行ってきます!」と玄関を出た自分よりも、「ただいまー」と玄関に戻った自分のほうが成長している。これがいい労働だと思うのです。


看護師はこの視点が足りていないと思います。

何度もいいますが、自分で足りていない所を自己学習することは否定しません。むしろ大事です。

でもそこばかりにフォーカスするあまり、現場で必要なことも教えない風潮があります。


もし医療事故が発生して会見をしたとき、マスコミから「どんな新人教育をしていたのですか?」と質問されたらどう答えるのでしょう?

「自分で調べろと言いました」と答えるつもりでしょうか。

「それって、『教えなかった』ということですね」とマスコミからツッコまれるでしょう。


【失敗その③ ちょっと失敗しただけでもうやらせない】



これも非常に看護界に蔓延しています。

「やらせない」という教育方針です。

ちょっとミスがあったり、ミスが続くと、その新人看護師に業務を「やらせない」ようにします。


これはとても重大なミスをやってしまって、一旦それをするのをストップするというレベルではなく、大したことないミスでも、「今後やらせない」ということがよくあります。


重大なミスや事故をやったのなら、命にかかわることなら、まだ分かります。


しかしそうでないことですぐ「やらせない」を選択することがなんと多いことか!


たとえば、ガーゼの当て方が下手、ベッドから車いすへの移乗の仕方が下手とか、そういうのを先輩が見ると「あの子は危なっかしい。もうやらせない」という判断をされることがあります。

どう考えてもおかしいです。


「やらないと、上手くならない」


この思考が完全に抜けている看護師が非常に多い。

なにも命に関わる重大なミスをしたわけでもないのに、「風が吹けば桶屋が儲かる」方式を導入するからよくないのです。


「やらせない」を選択する先輩看護師は決まってこう言います。

「だって大きな事故になるかもしれないじゃないか」


まったく分かっていません。

何度も何度も繰り返しやらないから上手くならずに、大きな事故につながるのです。


人は何度もやらないと上手くならないんです。

上手くならないと怖いでしょう?

だったら、やらないと。下手なら、もっともっとやらせないとダメ。大きな事故にならないように、先輩がついているんですから、もっともっとやらせないと。

そうでしょう?なんのために先輩が傍にいるのか。「やらせない」って、どういうこと?

その子はいつまで経っても上手くならない。いつまで経っても先輩ナースが言う「あぶない」ままなのです。


自転車を初めて乗ってコケて怪我したら、もう乗せないのですか?

料理を初めてやって、真っ黒に焦げてしまったら、もう料理させないのですか?


違うでしょう。うまくなるためにはそれでもやらないと。試行錯誤し、考え、もっと上手くなりたいと思いながら、やるでしょう?それでうまくなっていくんです。

なんでもそうです。

ブログだって最初の記事は文章力もなく、ひどいもんですが、それでも継続していくうちに文章が書けるようになってくるんです。

なんでもそう。


看護師はすぐに「命にかかわるから」と言いまますが、私から言うと、「それは大袈裟。ミスの本質が分かっていない。まったく命にかかわることじゃない。というか先輩のあなたはいったい何をしていたのか?」ということです。

本当に命に関わるようなミスじゃないのに、「ほれみろ、危ない危ない!あの子は危ない。もうやらせない」ということが非常に多い。


私は、看護師の仕事は一歩間違えば命に関わるということを骨身に染みて分かっています。

その私が現場の新人教育を見てて思うに、理不尽な新人教育が多すぎます。

先輩看護師に教育スキルが無さすぎるのです。


新人を一人前に教育するスキルがないから「もうやらせないでおこう。これで少なくとも事故は発生しない」というわけ?


【まとめ :看護師は教育のド素人。これを認識すべし】



看護師は教育の勉強してきていませんから、教育に関してはド素人です。

「人を健康にするためには」ということは学んでいますが、「人を成長させるためには」ということは学んでいません。

これは大学や専門学校でそういう看護教育プログラムに沿って勉強をしているので、仕方がないことだと思います。

まずは「看護師は教育に関しては素人」ということを認識しましょう。

これを解決する一つの案として、外部から教育専門家を導入するということも必要なのではないかと考えます。

外部からセミナー講師を招いて新人教育をしている先輩看護師に教育をするのです。

これを継続しておこなっていく。

看護師の教育係研修は現在もあります。あるんですが、研修から病院に帰ってくると、伝統的な上記の失敗パターンになってしまうのです。


それくらい現場の伝統というのは根深い。


数週間や数か月研修を受けたくらいでは、なかなか現場が変わらないというのを痛感しています。


あと、新人看護師も「自分は専門家なんだ」という自覚が必要です。

新人であろうが、世間は「一人の看護師に違いない」と見ます。

専門家ゆえに勉強は継続してやらないと、すぐにレベルが落ちてしまいます。


新人教育に携わる先輩看護師は、まず自分の知識やスキルに自信を持つこと。

人に教えるということは、その10倍は自分が知っておかないと教えられない。

細かいところまで知っておかないと、質問されたときに答えられない。

教える側こそ勉強がめちゃくちゃ必要なのです。


とはいえ、私は新人看護師はどんな人でも成長すると信じています。

新人を取り巻く環境はとても大事です。

成長できる環境を整え、先輩も後輩も一緒に成長できたらいいですよね。




それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。


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