日本看護協会は12月10日、「救命救急士が院内で救命救急処置を実施することに反対を表明」しました。
日本看護協会は10日、医療機関に所属する救急救命士による院内での救急救命処置の実施を認めることの検討を厚生労働省が提案していることについて、患者の安全を守る観点から反対の姿勢を示している。
(CBnews)
これはどういうことかと言いますと
救命救急士は病院内では救命処置ができない
ということが前提としてあるからです。
これを改正して救命救急士が「病院内」でも救命処置ができるようにしようという動きがあります。
日本看護協会はこれに反対というわけです。
ではもう少し詳しく解説します。
◆ 救命救急士が救命処置を実施できるのは現場から病院までの間だけ
第二条 この法律で「救急救命処置」とは、その症状が著しく悪化するおそれがあり、又はそ の生命が危険な状態にある傷病者(以下この項及び第四十四条第二項において「重 度傷病者」という。)が病院又は診療所に搬送されるまでの間に、当該重度傷病者に 対して行われる気道の確保、心拍の回復その他の処置であって…以下省略
(救命救急士法)
第四十四条 二項 救急救命士は、救急用自動車その他の重度傷病者を搬送するためのものであっ て厚生労働省令で定めるもの(以下この項及び第五十三条第二号において「救 急 用自動車等」という。)以外の場所においてその業務を行ってはならない。
救命救急士法という法律があります。
それに救命救急士のことが書いてありますが、上記の引用のように「病院に搬送されるまでの間」しか救命処置ができないんですね。
法律にそう書いてあるので、これはもう絶対なのです。
じゃあ、いざ病院に着いたらどうするのかというと、医師や看護師にバトンタッチするわけです。
救急車の中で心臓マッサージをしているときも、病院に着くと救命救急士から看護師に心臓マッサージをバトンタッチします。
点滴のルート確保やその他の救命に必要なことは、救命士から医師や看護師に移ります。
救命救急士は病院に着くまでが仕事なのです。
でも心臓マッサージをしながら病院に搬送されているのに、別にチェンジしなくてもそのまま救命士が心臓マッサージをしていてよさそうですよね。
救命救急士がそのまま心臓マッサージを続けていてくれると、医師や看護師はそれ以外の救命処置ができますのでうまく連携ができそうじゃないですか?
日本ACLS協会のBLS(一次救命処置)の定義では、心臓マッサージを交代する間の時間は10秒以内です。
心臓マッサージは思っている以上に体力を消耗しますので、一人がずーっとマッサージをすることはありません。必ず交代しながら心臓マッサージを続けます。
交代する時間は10秒以内、その間マッサージの手を止めていてもいいとされています。
ですが、
10秒以内といえども手を休まずにそのまま継続していたほうがいいんじゃない?
救命救急士も一緒に手伝ったほうが人員が確保できていいんじゃない?
と厚生労働省は言っているわけです。
(救命救急士は医師の指示で、気管挿管や点滴のルート確保、心電図モニター装着などができるんです)
※ 私は日本ACLS協会のBLS(一次救命処置プロバイダー)という資格保持者でして、救命処置が得意です。
この協会は救命処置の認定をしている協会で、たとえば「ハートセイバー」の資格を取りたいとか、心臓マッサージやAEDのやり方を学びたい人にはもってこいです。
別に看護師など国家資格を持っていなくてもとれる種類の救命資格がありますので、一応リンクを貼っておきますね。興味のある方はどうぞ。
日本ACLS協会のBLS(一次救命処置プロバイダー)のテキスト。
これ、一般の方でもとれる資格です。職場や趣味などで、勉強しといたほうがいいかなと思う方はぜひ。
これ、一般の方でもとれる資格です。職場や趣味などで、勉強しといたほうがいいかなと思う方はぜひ。
◆ 病院で働く救命救急士は「看護補助者」の身分になる
救命救急士は病院に搬送されるまでが仕事、と言いました。
なので、救命救急士は消防職員にならないかぎり、その資格を活かすことができません。
救急車に乗ってこそ、使える資格なのです。
たとえば救命救急士の資格を持っていて病院で働いている人を知っていますが、その人は「看護補助者」として働いています。救命救急士として働いているわけではないんです。
救急車の中でないと救命救急士として働けないので、そうなるんですね。
最近では老健などの高齢者施設で働く救命救急士さんが増えています。
というのも、消防職員に採用されるのは難しいからです。
資格をとっても働く場所がない、そういう厳しい現実があります。
ですが、急変時の対応や知識を持っていますので、いてくれると安心感がありますね。
とまあ、救命救急士は消防署で働かない限り、「無資格者」のような身分になるという厳しい現実があります。
◆ 日本看護協会が反対の理由
その① もっと勉強期間を増やさないと救命処置は病院内でさせたくない
救命救急士になるには養成学校で2年、最近は3年(医専など)の勉強が必要です。
※場合によっては1年でいい。
※場合によっては1年でいい。
ところが、看護師は正看護師なら専門学校で3年、大学看護学部だと4年間の勉強が必要です。
日本看護協会は「2年じゃあ勉強が足りない。そんな人に病院内の業務をさせられない」
というわけです。
2年しか学校に行っていない人が医師や看護師のように救命処置ができるようにするなんて⁈
その② 救命外来だけの業務に終わらず、医療機関全体にまで広がるのは嫌
そんなことを認めたら、結局どんどん業務を認めることになりかねない。
救命処置が可能なら、ほかのことも可能になりやすい。
そうしたら、看護師じゃなくてもできることが増える。
看護師の仕事を奪われる!!
それは嫌!
その③ 救命外来で医師や看護師が多忙なのは、配置人員の規定がないからだ
そもそも診療報酬に救急外来の人員規定がないから、人手不足になるんだ。
規定に○○人必要と書いてくれればいいのに。必要人数を確保に関する項目を書いていないから、病院経営陣が看護師をそろえないんだ。
んー、なるほど。
◆ まとめ
まとめ■ 救命救急士は病院に搬送されるまでしかその業務ができない。厚生労働省はこれを改定し、病院内でも救命救急処置ができるようにしたい。
■ 日本看護協会はこれに反対。
■ 理由その① 二年の勉強では安全性に欠ける。
■ 理由その② 看護師の仕事が奪われるのを怖れている。
■ 理由その③ 救急外来が忙しいのは、配置基準がないから。
■ 日本看護協会はこれに反対。
■ 理由その① 二年の勉強では安全性に欠ける。
■ 理由その② 看護師の仕事が奪われるのを怖れている。
■ 理由その③ 救急外来が忙しいのは、配置基準がないから。
どうなんでしょう?
私は救命救急室の経験がありますが、結局医師や看護師でないとなかなか踏み込んだ救命処置は難しいと感じています。
病院内の連携は、やはりそこの病院スタッフのほうが当然優れているでしょう。
救命救急士が看護師にとってかわるようなことはないだろうと考えます。
なので、心臓マッサージとかを継続して院内で行えるようにするのはいいのではないでしょうか。
救命救急士になろう!っていう人は、救命救急の現場の仕事がしたいのであって、看護師の業務がしたいわけではないでしょうしね。
看護師の業務にまで手を広げるのなら、そもそも看護師になればいい話です。
日本看護協会はちょっと小っちゃいなぁと思ったのでした。
※ 追記)日本ACLS協会の「ハートセイバー」の資格をとりたい方はこれが事前に必要です。
受講日までによく読んでおきましょう。
一般の方が対象です。1日で資格取得できますよ。
それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。
救急医療のことは分かりませんが、やはり縄張り意識なのでしょうか?
私は厚生労働省の考えに賛成です。素人考えで申し訳ありませんが。
FDさん>>
そうでしょうね。資格業って縄張り意識が強いですから(-_-;)
でも今回の提案は、市民にとっていい事だと思いますけどね。
恐らく看護師の現場でもすべての人が今回の提案に反対しているわけでもないと思いますが規模のある団体はそれだけで何事にも政治的になってしまうのは致し方ないところかも?患者視点の意見代表者って実際いないところが議論するうえでもネックですね
青い森のヨッチンさん>>
なるほどです。
たしかにこういう議論て、役所や医療界だけで話が進みそうですもんね。
私の妻は一酸化炭素中毒で心肺停止でしたが、救急救命士の方に文字通り救命していただいたことで、生還できただけでなく脳に後遺症も残らなかったと思っています。
うまく連携して患者ファーストでお願いしたいですね。
いっぷくさん>>
そうですね。患者さんの視点をしっかり取り入れて議論してほしいですね。