入院するような病気やケガは突然やってくるものです。
私は脳卒中患者さんが多い部署で長く働いているので、特にそう思います。
今までの生活スタイルがガラッと変わってしまう。
ちゃんと動いていた手足が動かない。
普通にしゃべられない…
こうした事態に突然なってしまったら、どういう気持ちになるのでしょうか。
看護師はよく「患者さんに寄り添え」と言われます。そういう教育を受けます。
医療現場ではこうした患者さんは医療者にどう思われているのでしょうか。
◆ 夜な夜なベッドで泣いている女性患者に「感情失禁あり」とカルテに記録。
ある脳梗塞の女性患者が、よく泣いていました。
「こんなことになってしまって…」
「うまく歩けない…夫に迷惑がかかる…」
よく泣いていました。特に夜もベッドで泣かれているのを何度も見ました。
いろいろとショックだったのでしょう。
片麻痺があり、片手しか使えず片足は動きにくく車いすでした。
この患者さんのカルテの記録には泣いていたことについて「感情失禁あり」という言葉でよく書かれていました。
泣いていると、感情がうまくコントロールできていない人として記録されます。
こころが乱れているとでもいいましょうか、気持ちが高ぶり感情が爆発する人として見られます。
特に「デパス」や「抑肝散」といった落ち着かせる薬を出されることもあります。
本当にそうでしょうか。
よくよく想像してみてください。
涙を流す気持ちが分かりませんか。
涙を流して当然じゃないですか。
それは感情のコントロールができていないという事なのでしょうか。
◆ 片麻痺の男性患者が一人でベッドから出て転倒。「障害受容ができていない」とカルテに記録。
ある方麻痺の男性患者が「できるだろう」と一人で勝手にベッドから出て目の前の車いすに乗り移ろうとしました。失敗し床に転倒しました。
その日のカルテには「障害受容ができていない」故にできないのに自分でやろうとして転倒したとカルテに記載されました。
突然片麻痺になり今までのような動きができなくなった時、すぐにそれを受け入れることはまずできないと考えてください。
障害受容は時間がとてもかかるのです。
そして受容ができたと思っても再び受容できていない状態に戻ることもあります。
揺らぐものなのです。行ったり来たりするんです。
発症して数週間、数か月の入院患者さんが「障害受容ができていない」とは、当たり前と考えましょう。
◆ 認知症患者が「もう帰ります」と病院を出ようとすると「帰宅願望が強い」とカルテに記載。
夕方から帰りたくなることが多く、「夕暮れ症候群」または「黄昏症候群」と言われます。
とくに認知症になるとここがどこか、なぜここにいるのか、が分からなくなりますから、普通に家に帰ろうとされることはよくあります。
こうした認知症患者が「もう帰ります」と言って帰ろうとすると「帰宅願望あり」「帰宅願望が強く」などカルテに記載されることがあります。
患者にとっては「帰る」ことが当然のことなのです。
だってここは自分の居場所じゃないと本気で思っているからです。
「そんなの理解不足なだけじゃん」「ボケてるから分かってないんでしょ」
というのは簡単ですが、患者の気持ちを考えると悲しい現実なのです。
知らない所、知らない人達、ご飯が出るけどお金を払っていないし食べてもいいのか…、帰りたくても帰らせてくれない周りの人達、息子は今どうしているんだろう、どこにいるんだろう、いつ迎えに来てくれるのだろう。
そんな思いの中にいる患者。
帰ろうとすると「ダメ」「帰られないよ」「どうやって一人で帰るの?」などやいやい言われて、沈んだ気持ちになる。
「帰宅願望」という言葉で簡単に片づけられる現実。
それであんまり激しく抵抗して帰ろうとすると、薬を盛られます。そしておとなしくさせられます。
◆ 言葉にするのは簡単だが、本当の思いを正確に表しているとは限らない。
患者さんが泣いていたりできない事を勝手にやろうとしていたら、「感情失禁あり」「障害受容ができていない」などという医療者がいます。
— ピストン (@nursepiston) August 19, 2019
私から言わせるとそういう医療者こそが「患者の気持ちを受容できていない」のです。
医療の現場では「患者第一」を宣言しているところは多い。
しかし結局は医療者側が立場が強くて、医師がそう言ったから、相談員がここしかないと言ったからと、家族は反論なくそのまま流されることはよくあります。
大事なことは家族も症状や病気について勉強をすることと、病院(施設)側とよくコミュニケーションをとることです。
多くのトラブルや不信は、コミュニケーション不足が原因です。
医療者も「この場合はこうだ」と決めつけないで、患者の揺れ動く心情にもっと寄り添うことが必要です。
それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。
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非常によくわかります。神経内科領域はわかりませんが察することができます。
拘束のつらさ、ふつうの看護師さんはわからないと思います。ICUですが拘束、酸素の管が入りっぱなしで意思疎通ができないつらさは体験しました。
執刀医、麻酔医がへたくそなときのOPのあとのめまい吐き気の地獄、大きな手術だけで20回以上うけていろいろわかることがあります。おそらく医師でもわからない領域のこともわかります。どちらかというと患者よりの先生が、がんがみつかって、その恐怖感、OPの恐怖を知った、ひでほさんはすごいなんていわれましたが、いまはまたもとにもどりつつあります。そういうことまで察することができる看護師のピストンさんに敬意を表します。
私の行政書士としての師匠も脳梗塞で2度倒れてるんですが(1回目は奇跡的に回復。その代わり左半身麻痺)、兎に角、乱暴でいったん怒ると杖で壁をしばきまくり怒声をあげるめんどくさい爺ィです(笑)。2度目の入院では医師や看護師や私らが止めるのも聞かず、外車を用意させ無理やり帰宅してしまうという情けない有り様でした。でも奥様に聞くと「脳梗塞で倒れるまではこんな人じゃなかった」と仰ってました。いま思い出しましたが奥様は看護師でした。
ひでほ さん>>患者にしか分からない苦しみ悲しみはあるものです。他人である医療者がどこまで正確に知ることができるか。真剣に患者の立場になって考える人が、患者の心に近づけるのかもしれません。
リス太郎さん>>脳のダメージの部位にしだいで、我慢することができなくなるという症状があります。
とにかく衝動的なことが抑えられない。本能のままに生きている。がまんができない。こういうことになる場合は実際にあります。この事例ではそうなのか分かりませんが、周りがどう対応するのか難しいですね。