病棟で働いていると、患者さんからよく聞きます。
押し問答になることもあります。
NS:Aさん、もっとお茶を飲まないと。脱水になっちゃうよ。
患者:そんなこと言ったって、おしっこに行ってばっかりになるやん。
NS:それにしても飲むのが少なすぎます。
患者:えー、そうかあ?飲んでるで。
NS:ほれ、こんだけしか飲んでないですよ。飲むのが少ないと熱が出るし、体調も悪くなります。たとえ室内でも一緒。たかが水分されど水分です。おしっこと体調不良とどっちがいいの?お茶で体調が保てたら安いもんでしょ。
患者:はいはい、飲みますよ。
NS:……って、言っておきながらまだ飲んでないでしょ!もー、後で飲むって言う人は絶対飲まないんだから。今、せめてコップ半分は飲んで。
とまあ、病棟ではよくある会話です。
老健など老人ホームでもよくある会話です。
水分をとることは大切です。国民の皆さんもご存知のとおりです。水分は大事。
でも高齢になってくると水分を摂らなくなってきます。
一日の水分の摂取量が減ります。
これは高齢者ならではの理由があります。
◆ 高齢者は脱水になりやすい。
これは
①体内の水分が若い時に比べて減る。だいたい10%くらい減る。
②腎機能が落ちてくるので、おしっこを増やして老廃物を出そうとする。
③渇きに対する感覚が鈍くなるので、渇きに気付きにくい。
といった加齢による体の変化があります。
特にそもそも喉が渇いていないという理由で飲まないのとおしっこに行きたくなって何度もトイレに行くとか漏らすんじゃないかという怖さがあって、水分をあまりとらない方が多いです。
しかし①のように高齢になるとそもそも体内の水分は減ります。そこへ水分補給が不十分だとさらに脱水になるリスクが増えます。
◆ 体内の水分不足はいろいろとリスクがあります。
よくある症状として「発熱」があります。
身体の水分が減ると熱が出るというのは、車のラジエーターを思い出してもらえればよく分かります。
ラジエーターの中の水が減るとオーバーヒートを起こすリスクがあります。これはエンジンの熱を水が循環して熱を放出しているから車は焼けることなく走ります。ところがラジエーターの中の水が極端に少なくなると熱が放出されにくくなりオーバーヒートを起こします。
人間の体内には血管があり、その中を血液が流れています。血液が環流が悪くなると熱が血液に乗って分散されにくくなります。
また、水分摂取量が少ないとおしっこも少なくなります。結構多いのが尿路感染症です。おしっこの通り道は外の世界とつながっています。尿道口から尿道、膀胱へ、そして尿細管を通って腎臓へ。おしっこの通り道はこのように外とつながっているため、細菌が侵入しやすい。おしっこはこの細菌を洗い流す役割もあります。おしっこに行かなくなると細菌が中に侵入しやすくなります。
尿路感染症は入院患者さんに非常に多い病気です。入院中にけっこうあります。
◆ 「おしっこ増」と「発熱や倦怠感」どっちを選びますか?
さてここで問題です。
高齢患者さんがなかなか水分をとってくれません。
1日にコップ半分くらいしか飲みません。とても少ないです。
本人は「おしっこが近くなるから。何回もトイレに行かなあかんし、もし尿漏れしたら嫌やし」
こういう患者さんにもっと水分をとってもらうにはどうしたらいいでしょうか?
正解はこれっていうのはありません。
「なんじゃそりゃー」って意地悪でしたか。すみません。
こういう人に何度も何度も「さあ、飲んで」といってもまず飲みません。たまに、ごくたまに飲む人がいますが、まあ飲みません。
病院が提供する水分ゼリーがあっても、「そんなにたくさん食べられない」と言ってそれほど食べません。
コンビニのおいしそうなゼリーでもいいですが、毎日いくつも買えないし。仮に買っても一日中ゼリーを食べてるわけにはいかず、最初だけでそのうち食べなくなる。
何度も何度も水分をとることの大切さを患者本人に説いてもだめ。最初に書いたように「はいはい、分かりました」と言って後で飲まない。
だから現場では困ってしまいます。
あれこれ試していく、その都度ちょっとずつでもいいから飲んでもらう。これの繰り返し。そうするしかないと思います。
一番いいのは、それこそ保育園や小学校から以下を学んでいくことだと思います。
①水分をしっかり摂ること。
②歳をとると飲まなくなりがちで注意しないといけないこと。
③水分不足で起きるリスクを勉強すること。
やはり小さな頃からの教育が大切です。
いまの70代、80代、90代の人はこうした水分の大切さを学校で教わっていないはずです。だぶん。きっと。
学校以外でもこうした話をしていなかったはずです。たぶん。きっと。
部活やスポーツで「水を飲むな!!水飲むやつはまだまだ根性なしだ!」と言っていた時代ですから。また「水なんか飲むとよけいしんどいぞ。よけい喉がかわくぞ」と言っていましたから。
そういった根性論ではなく、きちんと科学的に正しいことを保育園、小学校から教えていくと、きっとみんなが水分摂取について大切だと思ってくれるはずです。それで高齢になった時一人でも二人でも発熱や体調不良が減ればいいなあと思います。
「喉が渇いた時にはもう遅い」
と言われています。
ぜひ飲んでください(ただし医師から水分制限等がある人は、その決まりを守りましょう)。
それでは最後まで読んでくださってありがとうございました。
<スポンサードリンク>
心外ICUに長く入院してました。300CCまで1日許可されてて薬で半分くらいのんでしまいます。150CCを氷にしてもらい味わいましたが、常に水分がほしくて夢みてました。また酸素でのどがからからで、会話もできないくらいでした。コップ半分はいけませんねえ。300CCでも地獄なのに・・・・小生の場合は点滴、シリンジだらけでしたからいいですけど。
ひでほ さん>>それは厳しい水分制限ですね。
本人にとっては地獄でしょう。心外だからこその制限でしょうね。
私はとても辛抱できないですよ…
大変でしたね
母の最期を思い出しました。食事を摂らなくなった後は、水分も摂れなくなりましたが、亡くなる前日に熱を出しました。熱の原因は不明と言われましたが、翌朝救急車で運ばれたときにもやはり原因はわからないけど、腎臓の機能は悪くなっていると言われました。
施設では、いつも職員の方が多くの人に「飲み物も飲んで下さいねー」と口癖のように言われていました。
水分は本当に大切なのですね。若いうちから水分をしっかり摂る習慣をつけておいた方がよさそうですね。
ようこくんさん>>おっしゃる通り、水分は大切です。
でも高齢になるとそもそも感覚が鈍くなり喉の渇きが感じられにくくなります。おしっこが近いのも嫌がります。
難しいですね((+_+))